自慰行為が制限される辛さを考える

 今年に入ってから不倫に関する騒動が相次いでおり、やれCM降板だの、やれ議員辞職だの不倫に対する世間の風向きの強まりを感じる今日この頃で、不倫が週刊誌にすっぱ抜かれても動じることなく職務を全うした和田豊阪神タイガース監督のメンタルの強さを改めて思い知るわけですが、そんな最中にさらなる大物として出てきたのが、乙武洋匡氏。
 来る7月の参院選において自民党からの出馬も予定されており、東に裏切られたと嘆いている人がいれば、西ではここぞとばかりに不謹慎ジョークが爆発したりと、それぞれ色々と思うこと、言いたいことはあるのでしょうが、ここで普段ヤリチン野郎は殺せと主張してやまない私が少しためらってしまうのは、乙武氏の下半身事情がちょっと特殊というか、ストレートに言えば乙武氏ってオナニーができないじゃないですか。
 日本人男性の日々の楽しみの七割がオナニーで占められているというのはGHQの調査でも明らかですし、たとえば「もう明日のテストとかどうでもいいよ、日本史なんて赤点取らなけりゃ問題ないし…………シコるか」「ああ、もう会社辞めようかな…………よしっ、とりあえずシコろう!」みたいに気持ちを切り替えるために致したり、残業終わりの帰宅途中に夜食にコンビニ弁当を買おうとしたら、雑誌コーナーに快楽天の今月号が発売されているのを見て「よっしゃこれ買ってシコろう!」って明日への活力を得るために致したり、ダラダラ夜中までネットサーフィンやってたら、まとめサイトでグラビアアイドルの画像がまとめられてるのを見ちゃって、時計の方見てから「まだ12時か……とりあえずシコろう」ってなんとなくと致したりと、マスターベーションなくして男子の生活は成り立たぬと古事記にも書いてあるわけですよ。
 だって神様に「明日からお前オナニー禁止な」とかって言われたら、ブラックジャックばりの勢いで「神さまとやら! あなたは残酷だぞ!」って絶叫するし、「ラブドールは? ラブドールはありだよね? あれ使うのはオナニーじゃないよね」とかなんとか妥協点を探ろうとするし、最終的には体育館で「藤沢先生……! セックスがしたいです……」って泣き崩れながら、さんざん小馬鹿にしていた恋愛工学の門を叩くしかないじゃないですか。それぐらいオナニーができないってのは辛いってことなんですよ。わかりますか? うん、わかった!(裏声)
 けれども、乙武氏は生まれた頃から我々が当たり前に持っている手淫の自由を持っていないわけですよ。
 妻が妊娠したり、出産で子供の世話で精いっぱいになって夜の営みが遠ざかったことをきっかけに、他の女性に…………ってのは不倫でもっともありがちなパターンの一つで、先日辞職した宮崎議員も、今回の乙武氏もそうした流れから不倫が始まったわけですが、こういうケースに対しては「てめーが中出しキメたせいで人の親になるんだから、てめーの下半身の処理ぐらいてめーでどうにかしろよ」となるのが一般的な世間の見解と思われます。ですが、乙武氏の場合、それが自分ひとりではどうにもできないわけです。
 心無い一部の人は「手が使えないなら床オナをすればいいじゃない」とかどこぞのマリーみたいなことを言うわけですが、乙武氏があれをやってしまうと、その後のパンツの処理もままならず下半身をぐちゃぐちゃにしたままでいるしかないという不快かつ屈辱的な状況に追い込まれるわけですし、そもそも乙武氏のような人が床オナをする場合、手足に体重をかけられない分、体重が全て股間にかかって危険なのではないだろうかという識者の意見もあり、軽々しく床オナしろとはなかなか言い難い。
 このように、フルマラソンで例えると、お前だけ木靴はいて走れ、みたいなハンディキャップが課されている乙武氏ですが、そんな立場の彼が、金も得て社会的地位も得て、さらに有名人ということで女性もホイホイ近づいてくる。そんな状況になったら、そりゃあヤるだろう、と。少なくとも私が彼の立場に立った時、「そんな不誠実なことを自分はしない」と言い切る自信はちょっとありません。
 いや、そういうのはせめてプロ相手に任せようよという意見もありますが、乙武氏のような有名人、それも身体的にかなり目立ってしまう立場になると、軽い気持ちでピンサロとかに入れないわけです。この心無い世の中、隣の席に乙武氏が座ってるなんてことがあれば、退店後に、twitterとかに書かれてしまうのは間違いありません。あと、あの手の店ってバリアフリーとは縁遠いので入店のハードルが高いというのも考慮していきたい。
 しかし、それでも性欲は日々リローデッドされていくわけですが、そうした頻繁に訪れる下半身の危機を妊娠中や育児中の妻に毎度毎度頼るというのも、なかなかに負担がかかるわけで、そうなると他の女性に走ってしまうというのはわからなくもない。
 こういった具合にハンディキャップというのは目に見えるものばかりではないというのを、現在乙武氏を叩いている人にわかっていただきたい、そう思って今回筆を執った所存であります。
 それにたとえ手足がなくてもアグレッシブに女性にアプローチしてしまうというのは、彼が以前から主張していた「障碍者とは決して聖人君子ではない」という主張を裏付ける、ある意味、もっとも人間臭い過ちとも考えられるじゃないですか!

 まあ、それはそれとして、不倫を複数回重ねていたというのは、これまで彼がこれまで築き上げてきたイメージにとっては致命的で、お前どの面下げて教育者ヅラしてたんだよ、という批判は当然出てくるし、謝罪文に奥さんのコメントを合わせて掲載するという立ち振る舞いも、彼ならではのメディア戦略のいやらしさを感じ輪にかけて胸糞悪いし、今回の件に見られたガツガツした生臭い人間らしさというのは私人としてはともかく、公人の立場となる政治家にとってはこの上なく最悪なので、政界への進出は取りやめた方が関係者各位の幸せに繋がると思われます。
 これまでは多感な時期の子供がいらっしゃるということで下半身事情については色々語りづらいところもあったでしょうが、今回のようなことが周知されてしまうと、今更取り繕ってもかえって見苦しいだけなので、今後はなかなか語られづらかった障碍者の性事情なんかを当事者の視点からバンバンぶっこんだりすれば良いのではないでしょうか。
 こうした話題はホーキング青山氏とかも漫談のネタにはしていますが、知名度や発信力、社会的影響力でいうと、やはり乙武氏が頭一つ抜けていることは論を俟ちませんので、これからは『乙武 a.k.a. 純愛エロメガネ』としてより一層活動の場を広げ、今後益々ご活躍されることをお祈り申し上げます。

セックスボランティア (新潮文庫)

セックスボランティア (新潮文庫)

『フォースの覚醒』と一時期流行った二世もの漫画について。

 『スター・ウォーズ』の新作が十年ぶりに登場で巷で話題っつーわけで観に行きました。別に僕は旧三部作からの大ファンとかいうわけではなく、というか旧3部作はテレビ放送でしか見た事がない。けれど新三部作は劇場で見たし、旧作ファンがとことんダメだししているエピソード1だってそんなにひどいと思わない。むしろ「ポッドレース結構面白くなかった?」「ダース・モールのデザインは今でも出色の出来だと思うよ」「なんでみんなジャージャーそんなに嫌いなの?」という気持ちがあるし、つまり、あまり一般的なスター・ウォーズファンの感想じゃないんですよ、これは。というエクスキューズを配置し終えたのというわけで、以下ネタバレ。

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ネットとテレビが手を組むとヤバいとは思った

 先日の捕捉と言うか、この手の炎上沙汰は割と日常茶飯事じゃねみたいなこと書いてたんだけど、今回の件でこれまであんまりなかったなあって感じたのが、ネットで見つかった検証画像をテレビが次々と採用していったこと。
 バラエティじゃYouTubeなんかの面白動画を使うのは割と珍しいことじゃないけど、ニュース番組とかでここまで露骨にネットの情報をソースに番組が組み立てられたことって珍しいんじゃないかな。
 いつもだったら「ネットで見つかる情報丸パクリしてねえで、自分たちで仕事しろよテレビ局」みたいな論調も上がってきそうなんだけど、今回はそんなもんほとんどなく。
 テレビとネットが手を組んで特定の対象に攻撃姿勢を示すと情報の拡散スピードが本当凄いことになる。たまにまとめサイトが匿名ダイアリーとか個人のtweetを取り上げて、さらにそれをニュースサイトが取り上げて大事に見せるっていうソースロンダリングをやってるけど、それの強化バージョンみたいな感じ。そうなると、まあ、通常以上に歯止めが利かなくなって、俺が記憶してるケースだと病院で暴言吐いた岩手県議の時がそんな感じだった。
 そんなわけでテレビの人たちとネットの人たち*1は「27時間テレビは本当につまらない。毎年見てる俺が言うんだから間違いない」みたいに仲良く言い争っている方が健全なのかもなあって思った。

*1:ネットの人たちという概念も怪しいもんだとは思うが

ネットの力というかベルギーの力では?

 今日は皆大好きドラえもんの誕生日ということでドラえもんの話をしていこうと思うのですが、去年公開されて先日もテレビで放映された映画『STAND BY ME ドラえもん』、皆さん知ってましたか!? 実はあれのポスターをデザインしてたのって、今話題の佐野研二郎さんだったんですよ! というわけで今日は佐野さんの話をします(超自然な導入)。
 僕は幼稚園に通っていた頃、先生の「みんなの好きなものは何かな?」って質問に「調子乗ってた奴がネットで大炎上してるやつ!」って答えるぐらいインターネットの炎上沙汰が大好きで、人生の絶頂を迎え我が世の春を満喫している人がちょっとしたやらかしで大炎上して奈落の底に落ちていく様子なんか見ると、福本漫画特有の異常に歯の本数が多い老人みたいな笑いを浮かべてしまうわけです(参考画像)。
 ちなみに二番目に好きなのがピーターラビットで、三番目に好きなのが六花亭のバターサンドです。怖いのはまんじゅうとキョンシー
 そんなわけで今回の件も終始笑顔で見守っており、疑惑の画像が一つまた一つ上がるたびにどんどん口元が緩んでしまい、ついにエンブレムの取り下げが決定したところで「いやあ東京オリンピックは楽しかったねえ。やってよかったねえ」と心地よい満足感に浸っていたわけです。
 まあ、それぐらい今回の一連のニュースにカブリつきだったので色々と思うところもあったわけですが、別にわざわざblogに書くことでもあるめえ。だってこんなblog誰も読んでないし……いまだにはてなブログじゃなくてはてなダイアリーだし……とか思ってたら、某シロクマ氏がこんなエントリを上げていたのを見て、色々ケチつけたくなったので今回更新しているわけですが、ここまで書いたところで、「えっ、この状況からシロクマ先生の暗い情念とかひっくり返すの厳しくない? ってかムリゲーでは?」と気づいたので、今までの展開は無しにしていきたい。これからの私の話はオリンピックにあまり興味のなかった一人の日本人の意見とかそういうニュアンスのものとして参考にしていただきたい。
 いや、で、まあ、暗い情念とかそういう情緒的な話は置いといて、俺ちゃんが特に気になったのは

私がおっかないと思うのは、そうしたメシウマ的なネット人民裁判が、とうとう国家レベルのプロジェクトをもひっくり返すようになった、という点だ。

 ってところで、確かに佐野氏も謝罪文で

もうこれ以上は、人間として耐えられない限界状況だと思うに至りました。

 とネットの炎上が原因で取り下げるみたいなこと書いてるけどさ、実際のところ、元々今回の件がこれほど燃え盛った決定打って、ベルギーがIOCに対して訴訟を起こしちゃったことだよね。
 確かに、佐野さんがベルギーのエンブレムをパクったという決定的証拠はない。多くのデザイナーが言ってるようにシンプルなデザインなのだから、偶然似てしまうことは充分にありうる。
 佐野氏がネットにアップされている画像を無断に使用している案件が複数見つかっており、色々疑惑の目は向けられているが、現状オリンピックのエンブレムをパクった決定的証拠があるわけではない。そして疑わしきは罰せずという原則もある。
 さて、ところでこの画像を見て欲しい。

 この画期的なロゴは先ほど僕が天から授かったインスピレーションを5分かけて描いたものだが、この超クールで斬新なロゴをプロのデザイナーに清書してもらって、カバンやお財布や筆箱にくっつけて販売しようとすると、なんだか大変なことになるような気がする。
 なんだよぉ、丸三つなんていうシンプルなデザインなんだから被ることだってあるだろぉ、この俺が作ったミッキーは完全に俺のオリジナルなの、オ・リ・ジ・ナ・ル。と滝川クリステルっぽく言い張っても、ディズニー率いるドリームチームには到底勝てそうにないね……そりゃ著作権の保護期間も延長しちゃうよ……。
 というわけで、佐野氏が実際の裁判で負ける可能性も充分にあるわけだ。
 もし、そうなった場合、当然今よりさらに短い期間で新しいエンブレムを準備せねばならず、それまでに使用した分の賠償金を払う必要が出てくるかもしれない。
 だから、今回の件でまず最初に説得しなきゃいけないのってベルギーのデザイナーだと思うわけですよ。確かにデザインに対して理解力の乏しい一般国民を説得するのは難しいかもしれない。いかなる分野であれ専門家の考えを素人に噛み砕いて説明するのは困難だ。けど、だったら同じデザインを生業にしている、ベルギーのオリビエ・ドビ氏は説得してくださいよ、と。
 そこで無事ベルギー方面の説得に成功しても世間での炎上が収まらなくて、エンブレムを取り下げるっていうなら「メシウマ的なネット人民裁判が、とうとう国家レベルのプロジェクトをもひっくり返すようになった」という意見もわかるのだけど、ドビ氏はエンブレムを取り下げた今でも訴訟を起こす気満々なわけで
 結局、一般国民ではなく、デザインに理解のあるベルギーのデザイナーを説得できない限り、エンブレムは遅かれ早かれ取り下げることになったのではないだろうか。
 今回の炎上によって、家族へのプライバシー侵害があったことや、メールアドレスを悪用されたことについては、ネット特有のいやらしさであり、炎上案件の恐ろしさ、性質の悪さだと思うけれど、その件とエンブレムを取り下げることを一緒くたにしてネット凄い。ネットヤバいみたいに語ってる人達は何か違くね? あるいは佐野氏の言い分を額面通りに受け取りすぎでは? 大丈夫? 素直すぎない? ところで絶対儲かる話があるんだけど、今度通帳と印鑑持って新大久保のルノアールに来てくれない? って思いました。
 その後に、このようなエントリを書いて、今回の件を通して炎上とそれに絡んだ集団心理の危険性みたいなことを書いているのだけど、これに関しては、これまで炎上して悲惨な目にあってきた人を散々見続けてきたシロクマ先生が、昨日今日ネットを始めた中学生みたいなことを言わんといてくださいよ……。何? カマトトぶるのが流行ってるの? 「私……実は男の人と付き合ったことがなくて……」からのベッドの上で大股おっぴろげて大陰唇とクリトリスにピアスドーンって感じっすかね、ギャップ萌えってやつっすね。
 あとシロクマ先生、もうそろそろあの青いのに対する言及の解禁時期に入りますよ、この三年でめっちゃ熟成されてますよ、アレ!
 まあ、今回のエンブレムの件に関しては、他にも「多くのデザイナーがシンプルなデザインだったら被ることもあると言っていたが、どこら辺までが被りで、どこら辺からがパクリになるという明確な基準はあるのだろうか」とか「つっても上海万博のテーマソングの時、みんな岡本真夜のパクリだって言ってたじゃん!」とか「今回の一件みたいに誰も責任取ろうとしねえ世の中で、『少年サンデーの運命の責任は僕一人が背負う』って言ってのけるサンデーの新編集長ってマジやばくね?」とか「そもそも佐野氏も佐野氏を批判していた人も組織委員会の面々もマスコミもデザイナーも一般国民もみんなインターネット使ってるんだからさぁ、今回の件みたいにネットの勝利とかネットが悪いとか言うのって何か違うのでは? 野球で例えると『試合の決定打となる一発をバットを使って打ったので今日の試合はバットの勝利です!』とか言うぐらい違くね?」とか「今回の炎上に関しては、デザイナー一人に責任を負わせて終わるのではなく、この調子で審査の不透明性とかにも切り込んでいくべきではないだろうか。いや、より公正な審査を望むとかじゃなくて、ぽっくんもっと色んなところに飛び火する光景が見たいの」とか色々思うことはあったのですが、私信を飛ばすという本来の目的が無事済んだので寝ます。

アメリカン・スナイパーとこち亀、あるいは秋本治はイーストウッドを超えたという話。

 そんなわけで今話題の映画、『アメリカン・スナイパー』通称アメスパを見てきたわけですよ。マーヴルアベンジャーズ戦略によって2で打ち切られちゃったけど、戦闘中のスパイディのへらず口っぷりや軽薄さは原作っぽくて良かったと思うんですよ。ただ、蜘蛛に噛まれて能力ゲットした直後にスケボーで延々と遊んでいるシーン見て、「コーラのCMっぽいな……」って思ったのも事実ですが。とりあえず新しいシリーズが作られる場合は、また蜘蛛に噛まれてスーパーパワーを手に入れてベンおじさんが強盗に殺されて、大いなる力には〜という教訓を得る一連の流れをもっかい見せられるんだろうかと考えると今の時点でかったるさを感じずにいられませんが、それでも他のヒーローとの共演が見られると思うとやっぱり嬉しいですね。
 話を元に戻して『アメリカン・スナイパー』の話をするんですけど、当然ネタバレがあるので、見てない人は回れ右した方が良いんじゃないかな。
 で、僕は映画や小説を見たり読んだりする場合は、なるべく前知識を入れずノー偏見で見た方が楽しめると思うタイプなんですが、最近は話の筋が複雑になると、脳内のメモリが人間関係の整理でいっぱいいっぱいになってしまうし、特に洋画だと誰が誰だかわからなくなったりすることも多いので、ある程度は事前情報を仕入れた方が素直に楽しめるんじゃないかなって思い始めてるんですけど、どうなんですかね。いやそんな話はどうでもよくて、まあ、とりあえず監督がイーストウッドで、前評判が結構良い感じで、タイトルから察するにアメリカ人のスナイパーの話だろうって程度の情報を仕入れて観に行ったら、ラストでびっくりして、それから葬儀の様子を随分丁寧に撮るなあ。と思ったら、エンドクレジットの最後の方に「クリス・カイル・ファウンデーション」みたいなマークが流れて、「えっ、もしかして、これ実話!?」って驚いたわけですよ。
 この件でふと思ったのが、歴史ドラマを見てる人たちが「坂本竜馬って中岡慎太郎寺田屋で暗殺されちゃうんだよね」「ひどいネタバレされたー」みたいな会話をするっていう笑い話をネットでたまに見かけるのですが、やっぱ僕がこの映画見る前に「主人公死んじゃうよ」って言われたら「ネタバレするんじゃねえよ!」って憤った可能性が高かったと思うし、しかし、その手の話題に関心のある人は知っていて当然だろうし、ましてやアメリカ人ではもっと常識になっていると思われるので、ネタバレの扱いって本当に難しいですよね。
 本作はアメリカ国内で「戦争賛美」と言われたり「反米映画」と言われたりと評価が真っ二つに割れているというのを、たまむすびで町山智浩が言っているというのを、ここの書き起こしで見たんですが、個人的に気になったところとして、

町山智浩イラクアメリカ軍が入って、侵攻しましたけども、その時に自爆テロをしようとして、爆弾を持った女の人が出てきたんですけど、その人を射殺してるんですよ。
赤江珠緒)うーん・・・
町山智浩)最初に殺したのが女の人なんで、もう、これ英雄って言えるの?って問題になってくるんですね。
赤江珠緒)たしかにね。

って会話があって、いや、そこで女を殺したから英雄じゃないっていうのはなかなかキテやがるなって思ったんですけど、どうなんですかね?
 いや、そりゃ無抵抗の女性を一方的に射殺したならそりゃどうよって話ですけど、これ射殺された女性、爆弾持ってるわけじゃないですか。それをほっといたら味方が大量に死ぬわけで。それでも女性を射つのはよろしくないって言うのかもしれないですけど、だって仮に射殺したのが男性だったら、「ブラボー!」とか「彼こそがこの国のヒーローだ!」って見かたになってしまうんでしょ。それはそれで気色悪いなと思うんですが、どうなんですかね。
 ほら、だって、昔の偉い人もこんなことを言ってましたし↓

 で、アメリカ国内で評価が真っ二つって話で、これが純然たるフィクションだとすると評価が割れるのもわからない気もしないんですけど、これ実話で実際にモデルがいる話じゃないですか。愛国心に燃えイラクで百人以上殺した伝説的スナイパーは、実際は度重なる派兵でどんどん精神の平衡を失って私生活もボロボロだったっていう、既に存在する英雄像に冷や水ぶっかけるように内容なんだからこれを戦争賛美って受け取るあたり、やっぱアメリカ人キテるなあと思ったりしたわけです。
 で、本作で一番の見どころともいえる、髭の生え方と太り方がスタパ齋藤に似ているクリス・カイルさんの壊れっぷりですが、戦地から帰ってくるたびにどんどんひどくなって、物音に過敏になったり、運転中バックミラーに写る車を無性に気にしてたり、バーベキューやってる最中じゃれついた犬が子供を押し倒したのを見て、慌てて犬を殺そうとしたりとかなりキテるわけで、「戦争は人間の心を荒ませるね。やっぱり平和が一番だね」っていう小学生並みの感想を抱いたわけですが、無音のエンドクレジットを眺めている時にふと気づいたんですよ。
「これってこち亀ボルボ西郷じゃん……!」
 そう、強面な外見に元軍人という経歴でありながらも、物音に過剰に反応して、背中に立たれただけで発砲し、常に銃が手元にないと不安で仕方がない危険な男、ボルボ西郷。クリス・カイルはまさしく彼なんですよ。
 クリント・イーストウッドが2014年に深刻な社会問題として描いた兵士の姿を、秋本治は1987年の時点で描いていたわけです。それも痛烈なギャグとして!
 秋本治先生と言えば、エアガンやモデルガンのコレクションを持つガンマニアとしても知られていますが、この時期の秋本先生はサバイバルゲームにはまっており、おそらくゲーム内での経験がボルボのようなキャラを生み出したのでしょう。ベトナム帰還兵の資料を読み込んでPTSDの情報を調べた上でボルボというキャラに昇華した可能性もありますが、深刻な社会問題をギャグとして処理したというならそれはそれで凄いでしょう。いや、元々はゴルゴ13のパロディじゃんとかそういう話はいったん置いとこう、な。
 ともあれ、このボルボ西郷というキャラクターは現実のクリス・カイルを遥かに先取りしており、秋本治はわずかなサバイバルゲームの経験だけで、イラク戦争がもたらす悲劇を予見していたと言っても過言ではないのです!
 こち亀イーストウッドと言えば、第一巻の第一話でダーティハリーに影響された中川がS&W M29でライトバンを吹っ飛ばしていますが、そのシーンから約30年。イーストウッドが『アメリカン・スナイパー』を撮ったことによって、こち亀クリント・イーストウッドを超えていたことが証明されたわけです。
 だからみんなも海外の話題作ばっかりみないで、日本の伝統であるこち亀も読もうな!…………って感じで〆てその後アフィリエイトリンクを1巻から最新刊の194巻までズラッと並べたら面白いかなあって思ったんですけど、途中でめんどくさくなってやめました。
 けど、こち亀は面白いから皆読もうな。ジャンプで読んでるけど、あんま面白くないって思っている人はちゃんと最初の方から読もう! 絵柄が古くてちょっとって人は50巻あたりから読もう! 少なくとも寿司屋が前面に押し出されるまでは文句なしにオススメだよ、うん。

うかつにジャンル全体を批判すると死ぬ

 別名主語がでかい奴は全方位から殴られる問題の話をしよう。
 #有害都市 内部で描かれたアメコミに関する描写が不適切で大炎上 - Togetter
 ライトノベルが馬鹿にされがちな三つの理由 - WINDBIRD
 というわけで、最近俺の中で話題になってたこれら二つのエントリである。
 上のエントリはともかく、下のエントリはタイトルとは関係ないじゃんと、思われそうだし未来の俺が読み返したときに「なんで下のエントリもセットで紹介してんの? トラックバック送ってのアクセス流入狙い?」とか思ったりしそうなので、一応説明しておくと、最近のtwitterではtweet内に「最近のラノベ」という単語を入れておくと、どこからともなくラノベ天狗なる存在が現れ、発言をRTした後罵倒したり嫌味を言ってくるという都市伝説が確認されているからで、ようするに夜中に蛇を吹くと口笛がやってくるようなものである。蛇を吹くという言葉の意味はよくわからないが、カエルの尻にストローを突っ込んで空気を入れて膨らませるあれみたいなものだろう。
 実際、下のエントリに登場したような、ライトノベルを馬鹿にする人は常にラノベ天狗に監視されているし、さらに下のエントリから派生したエントリを書いた人物の中には実際に天狗に捕捉され、蛮勇を奮われている人もいるので興味のある皆は確認しよう。つまり下のエントリも今回のタイトルの流れに関係があるってことを過去の僕は主張したかったのさ、未来の僕。
 これら二つの話題に共通するのは、どちらもうかつにジャンル全体に言及するとおっかない人たちが押し寄せるということである。
 別にこれはアメリカンコミックやライトノベルに限らない、SFでもミステリでもゲームでも映画でも鉄道でも酒でもパンクロックでも野球でもファッションでも、何でもいいけど、うかつにジャンル全体を包括して語ろうとすると、どこからともなく詳しい人々が現れ面倒な状況に巻き込まれるという話で、ジャンルによって集まってくる人間の面倒くささは変わってくる(直接言及してくるダイレクトアタック系から、発言を切り取り遠巻きに眺めて嘲笑する見世物小屋興行主系など色々なパターンが存在する)が、下手にジャンル全体を語ろうとすると捕捉された際に倍返しされるという結論は変わらない。
 基本的に特定のジャンルというのは一人の人間が気軽に語るには広すぎる。もちろん常日頃から巷で流行っているそのジャンルのものに触れて造詣を深め、先人が遺した資料なり文献なりに当たり、さらに他の研究者などの知見に触れるなどすれば不可能ではないだろうが、それらは決して気軽なことではない。そうした努力を怠り、わずかな体験と漠然としたイメージで語ろうとすると大体あまり好ましくない展開が待ち構えている。
 にも関わらず、なぜ一事が万事と言わんばかりに、わずかな知識でジャンルを語ろうとする人間が後を絶たないかといえば、ジャンル全体を語った方が耳目を集めやすいからである。たとえばある特定の作品が詰まらなかった場合に、twitterで「『○○』はクソ!」と言ってもその発言には『○○』に興味のある人しかよってこない。しかし、ここで主語を拡大し『最近の純文学はクソ』とか『最近の邦画はクソ』と主語を大きくしてみると、あら不思議、その特定のジャンルに悪感情を持っている人からは賛同を得られやすい。やったねパパ、これで明日から僕もアルファツイッタラーだ!
 しかし、話はそう上手くはいかない。何故ならそうやって導きだされた結論はあくまでも自分のわずかな体験で得られたものでしかないのだから、ちゃんとそのジャンルに詳しい人にそうした発言を見つけられると、「てめ、たったそんだけの知識で何ナマ語ってんじゃ! ぶっ殺っぞ!?」と良くわからない方言で絡まれて、友人に向かって「やべwいきなり何か怖い人たちがリプしてきたんですけどwメンゴメンゴw」と自分余裕っすよアピールをしたは良いものの、実際にはリプライ欄を見るたびに二日ぐらいげんなりした気分になって「鍵かけようかなあ……けど、それするとフォロワー増えないし……」とかなってしまいがちなので、半可通で何かを語るのは危険だね。主語を大きくしたらさらにヤバい。という世間知を得た方が皆幸せになれる。
 まあ、けどそうした特定のジャンルのマニアが皆怖くておっかない人かというと話は別で、「先日『○○』って作品を観ました! やっぱSFって面白いですね!」みたいに批判するのではなく、ジャンル全体を称賛する類の呟きをすると、「だったら他には『××』って作品がおすすめですよ!」みたいに有益な情報を与えてくれるケースもある。そう、ただの悪人なんて、世の中にはいないんだよ。皆誰かには冷たくても、誰かには優しかったりするんだ。だから僕たちはなるべく優しい言葉を使って生きよう。罵倒や誹謗は何もいい結果を生み出さないんだ。人間悪いところばかりに注目しても良いことはない。ちゃんと綺麗な言葉を使って生きていこう。知ってますか? 水にありがとうっていうと、綺麗な結晶ができるんですよ!
 しかししかしけれどもしかし、世の中にはな、「はあ、そんなゴミみたいな作品褒めてんじゃねえよ、クソが」みたいな本気で面倒くさい人間も存在するのだ。そう、救いなんてどこにもないのだ。
 だから皆もっと罵りあい殴りあい殺しあってギャラリーである俺を楽しませたりすると良い。
 僕ぁインターネットにも、blogにも、はてなにも、生産的なものはもう何一つ期待しちゃいないんだ……。どいつもこいつもインターネットをささくれた感情の捌け口にして、瞬間的な憎しみをぶつけ合っていけばいいじゃん。いいじゃねえか、インターネットで罵倒されたって死ぬわけじゃないし。言いたいことも言えないこんな世の中を破壊してくれたのがインターネットじゃねえか。インターネットがあったからこそ、中村ノリだって首脳陣への不満をファンに伝えられたんだぜ。
 面白くないアニメを観たら「最近のアニメはゴミ」、気に入らない曲がヒットチャートを独占すれば「日本の音楽は死んだ」、つまんない映画に観客がたくさん入ってたら「山崎貴ってなんでこんなに人気あんの?」、それでいいんだよ。もちろん、そういう話は不特定多数の目から離れた場所、たとえば居酒屋で友人相手にするべきだ、という意見もあるかもしれない。
 けどよ、そんな友達がいないから、あんたもこんなところ見てんだろ。俺ぁ知ってんだぜ。

自由主義少女リベ子ちゃん・リブート

前回:自由主義少女リベ子☆マギカ[新編] 叛逆の物語 - 脳髄にアイスピック



「ラーメン屋で注意された客が注意した客を踏みつけて死亡……世はまさに世紀末……」
「リベ子ちゃん、世紀末はもう終わったよ! あと100日もすれば東京に使徒が襲来する2015年だよ!」
「空飛ぶスケボーはいつになったら開発されるのかしら……って、あなたは私の使い魔にして、ガンダムビルドファイターズの主要キャラと名前がかぶってるせいで、名前の使い勝手がますます悪くなったラルじゃない」
「トライはどうなるんだろう……広瀬正志さんの容体が心配だよ……って今はその話をしにきたんじゃないよ! 大変なんだよリベ子ちゃん!」
「毎回入り方一緒だけど、あなたが持ってくる話って基本ネット上の小競り合いが大半で、本当に大変だった試しってめったにないわよね」
「本当に大変な話だったら口づてに伝わるんじゃなくて、ニュースや新聞で直接知る場合の方が多いからね……。それよりこれを見てよ、これ!」
「なになに、エマ・ワトソンが国連のスピーチで男女平等を訴えたら脅迫、大炎上、と……久々にちょっとリベラルな流れになりそうな展開ね。エマ・ワトソンといえば、ハーマイオニー。つまり私と同じ魔法少女ってことじゃない」
「リベ子ちゃんって魔法少女だったんだ……」
「ええ、そして現代の魔法少女フェミニズムは切っても切れない関係にあるのよ」
「リベ子ちゃんってフェミニズムに詳しかったっけ?」
「ええ、ブックオフで『東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ』って本を立ち読みしたわ
「買ってすらいない……」
「しかし、久しぶりにエマ・ワトソン見たけど、この子も随分と成長したわねぇ」
本当たまったもんじゃねえよ!
「!?」
あんなに愛くるしかったハーマイオニーたんが、こんなありふれた女になっちまうなんてよお。時の流れってやつはちょいと残酷すぎやしませんかねえ……最近じゃ『キック・アス』でヒットガールを演じたクロエ・モレッツちゃんが良かったけど、続編の『キック・アスジャスティス・フォーエバー』だとなんていうのかな、アクションは相変わらず素晴らしかったけど、女優としてのオーラ……少女が幼少期にしか見せない輝きがめっきり減ったよね……なんでみんな僕を置いて大人になっていってしまうんだろう……
「落ち着いて、ラル! 彼女たちが年齢を重ねているように貴方も十分歳を取っているのよ! もう貴方も耳の裏の匂いとか起きたとき枕についてる抜け毛の本数を気にしなきゃいけない年齢なのよ!」
「ふふふ、けど僕には海外から輸入した『I am Sam』のBlu-rayがある。これさえあれば、僕はいつでも最高に可愛かった頃のダコタ・ファニングに会えるんだ……
「凄い……石川シスケの漫画に出てくる男キャラ並に目が死んでる……」
「けどね、リベ子ちゃん、僕はエマの言うことがわからなくもないんだ」
エマ・ワトソン、『14歳の時、私は一部の報道で性的対象のような扱いを受けました。』ってお前みたいな奴に対してめっちゃゲンナリしてるぞ」
「僕はそんな卑劣漢じゃないよ! 僕だったら14歳になる前のエマだってバリバリ性的対象にできるよ!」
「あ、うん、そうね、すごいわね……で、話を元に戻すけど、貴方がエマのスピーチの何に共感したの?」
ここに全文載ってるんだけど、エマはこう言ってるんだ。『私は、男性にこの足かせを取り外してほしいのです。それによって彼らの娘、姉や妹、そして母親が偏見から解放されるだけでなく、彼らの息子たちも弱さを持つ人間であっても許されるように。彼らが手放した自分らしさを取り戻し、そうすることでより本物で完全な姿の自分になれるように。』って」
「最近は草食系男子なんて言われている男性が増えてきたことや、男らしさからの解放を主張する男性学の研究も進んでいることを考えると、時流に乗った意見かもしれないわね」
「そう、エマのスピーチと似たことを考えている男性だって多いはずなんだ! 僕も世間が押し付ける男らしさなんか脱ぎ捨ててありのままの自分でいたい! 具体的には小学五年生ぐらいの美少女に『もうお兄ちゃんはしょうがないですねえ』ってあやされながら優しく手コキされて射精したいんだ!
「ラルって名前なのに、性癖はシャアっぽいわ……」
「男はみんな誰もが心の中にネオ・ジオン軍総帥を飼ってるんだよ……なのになんでこういうシチュエーションを描いたエロ漫画は少ないんだろう……僕は不思議で不思議でしょうがないよ」
絵面が汚すぎるからじゃないかしら……けど、ラル、残念ながら貴方の願いは叶わないわ」
「なんでだよ! 小五がダメなら小四でも小三でもいいよ!」
「そこはせめて年齢を上げて欲しかった……たとえそれが焼け石に水だとしても……そっちじゃなくて、男性が男性性から気軽に脱却できる社会は簡単には訪れないってことよ」
「なんでだよ…………お前ら授乳手コキされたくないのかよ…………最高だろ、授乳手コキ…………」
「そんな特殊な性的嗜好は一般化されないし、最高かどうかは個人の感想だし、そういうレベルの話じゃなくてここには社会と男性の結びつきの問題があるの」
「それはどういうことだい?」
「たとえば、男性の場合、女性に比べて“社会に出て働く”という役割が当然のものとされているわ。これは専業主婦と専業主夫の数を比較すれば一目瞭然よね」
「女性だと家事手伝いなのに同じことをやってる男性だとニート扱いされたりするよね」
「そうした社会では、残業をいとわず、有給も使わず、私生活を犠牲にして会社のために尽くせば尽くすほど社内での評価が高まる。福利厚生がしっかりしている会社ではその限りではないとしても、このような旧態依然とした会社はまだまだ数多いんじゃないかしら。こうして家庭のことには目もくれず働いたマッチョな人が出世していく。このようなマッチョな人が組織階層の上部に陣取り続ける限り、なかなか社会レベルでの変革は難しいんじゃないかしら」
「けど、トップダウンでの変革が難しいとしても、その社会を形成する一人ひとりが個人レベルで変わっていけばいいじゃないか! エマが主張しているのもそういったことだよ!」
「この場合、そっちはそっちで難しいのよね……」
「個人レベルで変わっていくことの何が問題だっていうんだよ」
ぶっちゃけ、男性性を放棄するとモテないのよね……
「直球だ!」
「そんな男性性バリバリな奴ばかりがモテるかっていうとそう単純な話でもないと思うけどさー、ほら、デートのとき気遣いがしっかりできてたりLINEの返信がマメだったり料理上手かったりする、ある意味で女性的な男の方がモテたりするし」
「僕、料理めっちゃ作れるよ! 平日FC2ライブでろくな配信がやってないときは特にやることないからって理由でブイヤベースとかめっちゃ時間かけて煮込むよ! あと女の子とLINEのアカウントを交換したときに備えて、スタンプにめっちゃ課金してる!」
「ごめん、その話まったく興味ないわ。でも少女マンガとかだと現代でも壁ドンとかが大人気だしねー、なんだかんだで女性的な側面を持っていたとしても、だからといって男性性は失ってほしくないって思っている女性は多かったりするんじゃないかしら。それに当のエマ・ワトソンも『もし、男性が女性に認められるために男らしく積極的になる必要がなければ、女性も男性の言いなりにならなければとは感じないでしょう』って言っちゃってて、これって裏を返せば、『男らしく積極的じゃないと男性は女性から認められない』ってことよね」
「けど、エマは『男性がそうした固定観念から自由になれば、女性の側にも自然に変化が訪れるはずです』って言ってるじゃないか!」
「いや、変わらんでしょ。人の好みなんてめっちゃ主観的なんだからさー。ほらフェミニズムの浸透によって女性が“女らしくない”生き方を選択できるようになっても、大和撫子が好みで良妻賢母を求めるって男は多いしねー。それにこれって『卵が先か、鶏が先か』っていう問題にも似ててさー、女性がそういう傾向の男性を好むから男性が『男らしく積極的になる必要』があったとも考えられるし。こう考えると、社会レベルでも個人レベルでも男性が男性性を放棄するメリットって少なすぎるのよね」
「そんな……せっかく美味しいブイヤベースが作れるようになったのに……リベ子ちゃん、どうにかして男性が男性性から合理的に解放される手段はないのかな……あと正直男性性とかどうでもいいから合法的に小学生にあやされる手段を……」
「正直すぎんだろ……ってか何千人ものフェミニストが何十年も思考を続けている問題にそんな解決策をポンと出せって言われても、無理に決まってるじゃない」
「そんな……」
「けど、そこをどうにかするのが自由主義少女であるところの私のレゾンデートル、任せてラル! 私がとっておきの解決方法を考え出してあげるわ。ポクポクポクポク…………ありの〜ままの〜♪」
「出た! 持ち歌がゼロ年代前半の曲ばかりに偏っていることに悩んでいたリベ子ちゃんが、最近カラオケで密かに練習してる日本語版Let It Goだ! フェミニズムの話題だけに曲のチョイスはばっちりだ!
「一曲歌っている間に全ての解決方法が見つかったわ、ラル」
「本当かい? リベ子ちゃん!?」」
ええ、『シグルイ』で秘剣・流れ星を会得するときに藤木源之助はこのように言ってるわ
「え、なんでいきなり虎眼流の話始めてるのこの人?」
「『もし奪わんと欲すればまずは与えるべし。もし弱めんと欲すればまずは強めるべし』……そう大切なのは敵勢力を強めること!」
「はあ……」
「そこでこの一夫多妻制度の導入よ!」
「話がめっちゃ飛んだ!」
「かのT.M.Revolutionも奈良スクリューのテーマでこのようなことを歌っていたわ『ハーレムを作りたいとかそーいや昔思ってたっけな』。そう男と生まれたからには誰もが己のハーレムを築くことを一生のうち一度は夢見る」
「はあ」
「一夫多妻。この甘い響きに世の権力者たちが惹かれないはずがない。きっとみんなこの提案に飛びつくわ。しかし、そうして獲得した勝利の美酒こそが絶命に至る毒酒! 一夫多妻制度によって一部の男性の下に多くの女性が集まる。その結果、配偶者を見つけらない男性が増え、男性の間でも少数の勝ち組と多数負け組という二極化が始まるわ。こうして世間のフラストレーションは溜まり、やがて彼らの怒りは憎悪となって女性を独占する勝ち組男性、この一方的な格差を生み出す男性性へと向かう。そうすればしめたもの。数は力よ。負け組男性を味方につけて、私たち女性は行き過ぎた男性中心社会の撲滅をモットーに世論をじわりじわりと誘導していくの」
「迂遠すぎる……」
そして、この計画の真の目的は男性達の社会的な去勢!
「アレなこと言い出した!」
こうして弱者男性の動員に成功し、女性の女性による女性のための武力革命を実現した私は日本国の女王兼大統領としてこの国を、そして男どもを支配するの……!  ちなみに私の試算では一夫多妻制度が実現するまでに25年、そこから武力革命が実現するまでに40年の時を要するわ」
「根本の発想がアレな割に、かかる時間に対しては現実的な見通しを持ち込むんだね……ってかその頃には僕もリベ子ちゃんも生きてるかどうか怪しいよ……」
「そうかもしれないわね、ラル。けど、社会や人の価値観を変えるってのは、時間を必要とするものなの。確かに私たちの世代ではこの世の中のすべてを変えていくことはできないかもしれない。けどね、私たちが少しでも物事を良くしようと考え行動し、次の世代へバトンを渡す……そうした一人ひとりの行いがより良い未来に繋がっていくんじゃないかしら……。ありの〜ままで〜♪」
「散々適当なことをのたまったあげく、なんかいかにもそれっぽいことで話をまとめようとした! ってかこいつリベラルに対して根本的なところで勘違いしてる気がする!」

つづかない

迷走フェミニズム―これでいいのか女と男

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