料理漫画のまだ見ぬ可能性

 知人と料理漫画の話をしていたら、リアクションのまだ見ぬ可能性として「美味すぎてゲロを吐くのはどうだろう」ってことになった。
 そもそも味覚というのは、個人差があるし、味というものは絵で表現出来ない。そこをどうやって表現するかが問題になる。
 基本として、料理を食した奴が、大仰なリアクションを取りつつ(間接的説明)、ベラベラとその料理の味を説明する(直接的説明)ってのを組み合わせるのが王道ではあるのだけど、そういった表現は、皆がやる分いささかマンネリ気味にならざるを得ない。
 とは言え、直接的説明は文章や台詞で説明する以上、どの作家がやってもあまり代わり映えが無い為、重要に成っていくのは間接的説明であり、結果、リアクションの表現をインフレさせ過剰にしていくか、あるいは、全然別ベクトルにスライドさせていくという方向になっていく。
 アニメ版の『ミスター味っ子』は何か喰う度に、城を破壊したり、車椅子で病院中を駆け回ったりと、リアクションインフレ組の最右翼として、評価するべきであり、料理を食べた女がエレクトしてるように見える『華麗なる食卓』はエロさと美味さを=で結んだ表現として、大分良い線をついていると思う。
 で、料理漫画では、美味さの質を表すリアクションの一つに、感涙する奴が出てくる。こうしたリアクションをより推し進めていくのであれば、美味さのあまり、忘我の境地に達して、失禁、さらに脱糞というのもありうるし、あるいは美味さのあまりびっくりして、嘔吐するというのも考えられるのじゃないかという話になった。
 美味いと言っては、ゲロを吐きながら、それでも湯気立つ吐瀉物の横に置かれた料理を食べては吐き、食べては吐く。ここまですれば、読者も皆、この料理はよっぽど美味いんだろうなと思ってくれるのではないだろうかと、思ったが、理論上はとっても美味しそうに思えるはずなのに、感覚としては到底着いていけず、見れたもんじゃないだろうし、表舞台には出てないけど、大昔誰かが『ガロ』でそんなアイディアを描いてそう。という意見も出た。
 結論として、失禁ぐらいまでなら、感覚的にも、いくらか納得がいくので、現時点で料理漫画における最高の説得力は失禁であるという結論になった。大変下世話な話ではあるが、食べる事と排泄する事は表裏一体なのだから、説得力を持たせる手法として、誰かがやらなければならない仕事ではあるし、もしかすると、ギャグではなしに、嘔吐しながら食べる人物を描いて、しかも料理を美味そうに見せることができれば、食に対する執念を描くと同時に、新たな料理漫画の可能性が開けるのではないだろうか、という話にもなって、そういった話をして、我々は貴重な休日をドブに捨てた。