『天の光はすべて星』

　次回最終回ということもあって、自分の中でグレンラガンがかなり盛り上がっているのだが、しかし、物語のクライマックスだというのに、話の展開よりもシモンの赤星マスクばかりが気になってしょうがない。あのマスクは、ここ数年見た顔に付ける道具の中でもトップ3に入るくらいダサい。現実だと無理があるが、アニメで見る限りかっこいいデザインというのも世にはある。しかし、あの星型マスクはそんなのとは関係無く、アニメの中であっても、文句無しにダサい。昔プロポーズしてきた男があんなものをつけて、「待たせたな」なんて言ってきたら、ニアだって「すいません、人違いです」ぐらいは言いたくなるだろう。それぐらい、あの星グラサンはダサい。あんなダサい人、フェイスガード虜以来に見たよ、僕。
　世間には、あれはキタンの遺志を受け継いだ事を表すシモンの意志を表したデザインなのだから、それをダサいなどと笑うのは何もわかっちゃいないとか言う奴もいるが、それこそ、わかっちゃいない。別に誰の遺志を受け継ごうが、どんな深い意味合いを持とうが、ダサいものはダサいのだ。何だあのデザインは？　あんな半透明の赤いスターシェイプマスクをつけて歩くぐらいなら、私は一生引きこもる事を選択する。
　しかし、そんなダサいマスクをつけながら、シモンは大変堂々としている。自分が裸であると気づかない王様ぐらい堂々とした態度だ。
　そもそもグレンラガンというのはそもそも第1話から豚に乗って脱走という『あしたのジョー』のパロディだったりと、全体的に、どこか泥臭かった。シモンも最初は土まみれの小汚いガキだった。兄貴の口上だって、リズムは良いが洗練された台詞だとは言い難い。
　肝心のマシンのデザインも、合体前は巨大な、顔から手足が直接生える、合体後は顔が二つ。良く言えば奇形、悪く言えば忘年会のおっさんの腹踊り的デザインである。しかし、物語はそのダサいデザインに臆することなく、突き進んでいった。
　そして、顔が二つという点からも言えるのだが、グレンラガンは過剰でもあった。ドリルも巨大化すれば、マシン全体の規模もどんどん大きくなって、今では惑星サイズ。ストーリーの展開の速さも過剰で、こないだまで螺旋王と戦っていたと思ったら、ファイトパウワなどと歌っている間に、いきなり七年立って、アンチスパイラルとか言い出すし。皆裏切るし。
　そんな風にグレンラガンは暴走して、どっか行っちゃいそうになっているにも関わらず、気がつけば、ちゃんと収まるところに収まって、王道をひた走るアニメに仕上がっている。
　これこそが、グレンラガン。無理を通して、道理を蹴っ飛ばす。
　だから、あのダサい星グラは、ある種このアニメの象徴とも言えるかもしれない。
　あれは間違いなくダサい。しかも、あのグラサンはゴーグルが気合で変化したものだ。サングラスって気合で変化させて、どうこうするものではないだろう。
　しかし、こうした、ダサさと過剰さこそがグレンラガンである。スタッフだって、あの赤星仮面がダサいぐらい百も承知だろう。多分、話し合ってるうちに、悪乗りして仕上がったに違いない。だが、ダサさと格好良さとは縁遠くはあるが、必ずしも相反するものではない。ダサくてもインパクトがあれば、良い。格好良さなんて、後からいくらでもつけることができる。あのサングラスともマスクとも言えない何かからは、そうした気配が漂っている。
　最初は小汚い70年代アニメ風の顔だったシモンが我々の眼には徐々に格好良く映っていった。そして、今、シモンは再び、センスを欠片も感じさせない風貌になっている。しかし、あれを視聴者に格好良く見せることができれば、それはスタッフの偉大なる勝利と言えるのではないだろうか。
　さて、そんなわけで最終話のタイトルの元ネタでもある、『天の光はすべて星』の話である。
　話の展開は至って単純で、事故で片足を失った、老年を迎えつつある、元宇宙飛行士が木星へ行く最後のチャンスをかけて、知略の限りを尽くすというものだ。
　話のメインは宇宙開発に絡んだ政治とロケットで宇宙を目指す男なので、グレンラガンの内容とは恐らく何も関係なく、単純にタイトルが格好良いから引っ張ってきただけだろう。
　SFには、話の内容に較べて、タイトルが格好良すぎるものが幾つかある。『月は無慈悲な夜の女王』とか『伝導の書に捧げる薔薇』とか。これもそうした作品の一つである。
　そんな地味目の話なので、半ば気を抜いて読んでたのだが、流石はフレドリック・ブラウン。話の終盤になって面白いことをしてくれた。で、その癖話自体は綺麗にまとまった。こんな機会でも無ければ、到底読もうとは思わなかったので、何か得した気分である。
　別にサブタイの元ネタが面白かったからといって、グレンラガン最終話が面白くなる保障にはならないのだが、素直に期待できそうな感じはしてきた。

　けど、やっぱあの星サングラスはダサいと思う。

天の光はすべて星 (ハヤカワ文庫 SF 474)