漫画的手法で観る亀田大毅世界戦

 終わってみたらKOはおろか、ダウンすらろくに無く、こんなつまらん試合はアリvs猪木以来だねとも思ったが、世紀の凡戦と呼ばれたアリvs猪木には、如何にルールの隙をつついて、有利な状況を作り出すかという大変戦略的な側面があったように、まあ、今回の試合にもそういった戦略的な側面があった。というか、それしかなかった。ルールは普通のボクシングなのに。
 今回の世界戦は採点公開制度が採用されちゃったので、流石の亀田一家も審判抱き込みを使う事が出来ない、さらに内藤はキャリアも長く試合巧者。キャリアの浅い大毅では判定に持ち込まれたら、まず勝てまい。だからといって普通にKOってのはもっと難しい。そうやって考えてみたら亀田次男の勝ち目は最初っから物凄く薄い。
 そこで、亀田一族が取った手段は、異端の戦略、無理矢理出血させてのTKO狙い。
 内藤に前回の世界戦からの試合間隔を開けさせない事で、傷が治りきる前に叩こうというものだ。実際に試合数日前のスパーリングで内藤は目蓋を切っている。
 きっとTBSのことだから、レフェリーも抱きこみ済みで、もし、実際の試合で内藤がちょっとわかりやすく、流血したぐらいでも「オー、ナイトウ、ユー、こんな怪我してちゃファイトできませーん、ユーの選手生命の為に、ここで試合はストップだよー」なんて適当なことを言って、試合を止めて、そのまま亀田を勝たせたに違いない。
 だから、今回の亀田の狙いは内藤を倒す事ではなかった。あくまで、内藤を流血させれば、亀田の勝ちなのである。逆に内藤は亀田を倒すことができなくても、亀田に倒される事はまず無かった。つまり、出血によるTKOさえ防げば、まず十中八九勝てる試合だったのだ。
 つまり、今回の試合は殴り合って倒すか倒されるかという単純な勝負ではなく、12ラウンドの間に亀田はどうにかして内藤を流血させる、内藤はそれを防ぐという、大変スリリングなゲームだったのだ。だからあの亀田長男のアドバイスも大変理に適ってる。肘だろうが頭だろうが、流血さえさせれば、いくら減点されようが、こっちの勝ちなのだ。しかし、目を狙えって。電気グルーヴか、あいつらは。
 まあ、何だかんだで、普通のボクシングとして観れば、やはりみみっちい試合だった。
 そして、結果、内藤は逃げ切った。よくやった内藤。
 亀田は無残にも負けたが、そんなみみっちい試合に負けて終わるのが歯痒かったのか、タックルや投げ技なども披露してくれて、大いに盛り上げてくれた。ありがとう亀田。
 そんなわけで、今まで玉虫色な結果ばかりとはいえ無敗だったから好きなだけビッグマウスを叩く事ができた亀田一家だが、今回はとうとう負けてしまった。今後彼らはどうやって世間にアピールしていくのか。
 私が一番望む形としてはやはり「所詮大毅は我々亀田一族の中で一番の小物」という奴である。
 あえて大毅を切り離す事で不敗神話を維持すると同時に、世界ランカーを小物とすることで、亀田一家の懐の広さを見せていく。
 また、このような設定を持ち出す以上、ディティールはより深めていくべきで、三男には、今はまだ未熟だが、潜在能力は兄にも勝ると言う設定を付け加える。もっとも、こういう設定をつけられたキャラは、結局潜在能力を完全に発揮する事は無く、主人公より弱いと言うポジションに甘んじるはめになるのだけど、それもしょうがない。そして、長男は勝負の鬼となる。勝つためならどんな非情な手段も厭わず、世界チャンピオンになった今でもひたすら強さだけをストイックに求める男になる。そして、次男は可能性に満ちた弟と偉大なるチャンプの兄の間でとことん苦悩し、勝つための手段を選ぶことさえ出来ず、反則まで用いるが、結局負けて、さらには一族から切り捨てられる。
 だが、本当の物語はここから始まるのだ。
 試合に負け、世間からは罵倒され、家族からも切り捨てられた亀田大毅。しかしである、一番最初に切り捨てられると言う事はその後仲間になるフラグが立ちやすいということでもあるのだ。男塾ではそうだった。無論、あんな卑怯な真似をした奴がそんな簡単に正義の側に立てるはずが無いと考えるかもしれないが、あの程度は勝つために全力を尽くすなら当然のフェアプレイである。男塾ではそうだった。
 そうして、正義に目覚めた、大毅は真の強さを求め、再びリングに立ち、、ライバル達と死闘を繰り広げ、友情を深め合う。だが、勝つためにはどんな汚い手を使う亀田父と非常なまでの興毅の強さの前に次々と散っていく仲間達、最後には一族の呪われた拳闘の血を自らの手で絶つため、兄弟同士で闘い、そして、死の直前に明かされる、兄興毅の真意。最後には全ての悪の元凶である父親とこの世界の命運をかけた戦いが始まる……!
 で、最後はフェイスフラッシュで皆甦る感じで。まあ、こんなちんけな妄想よりも、実際に腹切ってくれる方が遥かに面白いんですが。やっぱ身体張ってる奴には勝てないよね。
 あと、勇次郎のコミュニケーション手段は基本的に褒めてから殴るか、殴ってから褒めるか、有無を言わずに殴るかの3つしかないので、あんな風に褒めるのはおかしくて、あるべき勇次郎の姿としては、負けた大毅の控え室に行って「明日から……どの面さげて大阪を歩いたらいいんだ…………てところか。日本人ならその場でハラキリだぜ。おなじ敗けるにしても敗けかたってものがよォ……」とかって言った挙句、ぶん殴るのが正しい勇次郎の姿ではないだろうか。
 いや、漫画と現実の区別がつかなくなったので、もう寝ますが。