『バットマンの冒険1』

 いい加減ほとぼりも冷めたし、ムカつきも収まったし、俺はまた楽しい本の感想とかを書き殴る楽しいblog空間にして、楽しくやっていきたいね。ははは、Happy? とか思ったので、文体をどっかの誰かさんみたいな感じに戻して、楽しくやっていこうと思い、先日時間つぶしに読んだ、日本のミステリ作家のお偉いさん達が集まったトリビュート企画『小説こちら葛飾区亀有公園前派出所』が結構おもろかったので、それならばと思い、海外の著名なSF作家、ミステリ作家がバットマンのトリビュートをするという似たようなコンセプトで書かれた『バットマンの冒険1』を読んで楽しいユカイな感想を書こうと思ったら、何か、どれもとっても微妙だったよ! 人生ってままならないものだね! 
 そんなわけで、どうせこんな本誰も読んでないだろうし、今更手に入らないだろうから、そこそこ貴重な本を持っている優越感を交えて、ネタバレありの適当な感想書き殴っちまえと思ってたのに、amazonで捨て値で売ってやがったよ、これ。俺神保町で1000円ぐらい払って買ったんだけどさ。うん、人生ってままならないものだね……。


各話感想
ロバート・シェクリイ「ジョーカーの死」
 冒頭からジョーカーが死ぬという衝撃の展開。にも関わらず、ある日ブルース・ウェインの目の前に、死んだはずのジョーカーが現われ・・・・・・という話の入りは面白そうなのだが、変装してジョーカーの謎を探るも目新しい発見も無く、ジョーカーと関係無さそうな武器会社に進入したりと、ダラダラとした展開が続くし、ウェインが見たジョーカーの正体は武器会社の新兵器である、ホログラムだったというオチには閉口。結局ジョーカーは普通に死んだっぽい。
 話の展開からして、主人公が、バットマンである必要もそれほどなく、バットマンが武器や能力を披露する度に、設定資料集を丸写ししたような説明が出てくるのもうっとうしい。正直な話、駄作。

・ヘンリー・スレッサーバットマンが狂った!」
 バットマンが異常な行動を取って、精神病院へ入院するお話。
 執事のアルフレッドの視点から書かれているが、アルフレッドの皮肉屋という設定が薄められ、単なる心配性の執事としてしか書かれていないので、正直面白くない。ラストのバットマンが実は正気で、異常な行動は、全部犯罪を演技だったくだりを見ると、二人の関係が、まるで名探偵と助手、特に御手洗と石岡のようにも見えるが、その書き方はどう考えても違うだろ。
 あと、バットマンが入院した際の新聞の見出しで「バットマン、バッカマンに!」となっているのは、酷い。そこは無理せず、マッドマンでいいじゃんとも思うがこれが出版された当時の日本での認識のされ方を考えると、まあ、バッカマンもしょうがないのか。

・ジョー・R・ランズデイル「地下鉄ジャック」
 このアンソロジーで数少ない良作。
 夜中の地下鉄でショッピングレディが連続して惨殺されるという展開と、スーパーホラー染みた犯人の正体が、良い意味でB級感に満ち溢れて、バットマンというキャラクターにぴったり合ってる。
 アルフレッドが皮肉交じりにバットマンに的確なアドバイスする辺り、ランズデイルはちゃんとわかってる。

マックス・アラン・コリンズ「片手で拍手する音」
 何故か、タイトルが公案バットマンが捕まえた女犯罪者に、一目ぼれしたジョーカーが、その女をさらうというもので、短くまとまっている為か、それほど面白くもないが、つまらなくもない。
 このアンソロジーで唯一ロビン(二代目)が出てくる作品。このアンソロジーがロビンの死後に出されたから、しょうがないのかもしれないが、別に作中の時代設定が限定されていない以上、ロビンを出してはいけないという法も無いので、彼の出番の無さはいい年した大人にはロビンが嫌われていたということの証左に感じられる。

マイク・レズニック「休戦地帯」
 10ページもない、ショートショート
 バットマン達のコスチュームはどこで作ってるのかという疑問を取り上げた小噺で、読み終わった後、タイトルを確認するとほほえましい。俺はこういう正統派パロディがもっと読みたかったんだよ。

・カレン・ヘイバー、ロバート・シルバーヴァーグ「バットマン、夜の街にあらわる」
 ウェインが自分の家で、仮装パーティーを開いたら、バットマンの格好をした奴がいるわ、そいつが盗みを働くわってな話。スーパーマンみたいな、宇宙人ならともかく、バットマンみたいな一般人がヒーローをやる場合、精神病ネタや仮装ネタは定番といった感じ。スパイダーマンも精神病院行ったり、仮装パーティ用のコスチュームで戦ったし。
 偽バットマンと本物バットマンの追いかけっこで、偽バットマンが本物のバットマンことウェインに追いかけられるという設定は倒錯していて絵的には面白そうなのですが、小説でやられたら大して、面白くありませんでした。
 あと、ウェインの両親を昔殺した強盗が、唐突に現われて、バットマンをかばってあっさり死ぬ辺りは酷い展開だと思う。いくらパラレルだからといって、そんな重要なキャラを適当に扱うなよ。ちなみにカレン・ヘイバーは、シルヴァーバーグの嫁さん。

・スチュアート・M・カミンスキーバットマン・メモ」
 
 1940年代前半を舞台に、書簡形式で、当時の映画状況を交えつつも、その裏で描かれる犯罪とバットマンの活躍を間接的に書いたもので、映画プロデューサーが、実際に存在する“バットマン”を映画化しようという、ちょっと変わった設定が特徴。
 当時の映画トリビアがたくさん出てくるので、向こうの古い映画ファンには楽しいのだろうが、日本人の俺が読んでも然程感じ入る事は無い。しかし、エージェントのブルース・ウェインの白の切りっぷりやどさくさに紛れて出てくる、バットマンとロビンの関係性の怪しさとか、ちょうどこれが書かれた時期にティム・バートンによるバットマンの映画が作成されていたことを考えるとなかなか味があって楽しい。


 こんな感じで。
 俺の中でのバットマンのイメージが、フランク・ミラーが書いた必要以上に泥臭いハードボイルドな姿か、陰謀を企んだり、ヒーローをオルグして、スーパーマンや政府に喧嘩売ったりするという、両極端なイメージしか無いので、バットマンが普通の犯罪者に苦戦したり、或いは普通の犯罪組織を相手取ったりしていると、やはり違和感があるのだけど、バットマンの向こうでの受け止められ方って、多分この小説に書かれている、微妙にしょぼい姿が正しいのかなって思う。昔見たアニメもそんな感じだったしねぇ。そもそも相棒が半ズボンのティーンエイジャーって時点で大分キテるしねぇ。