彼の殺人計画 鬼頭莫宏

 買ってまで読もうとは思わないのだけど立ち読みするぐらいには面白いので、月刊の時よりは成功したと思われるジャンプSQに、最近流行ってる就活アドバイス風に言うと、鬼頭莫宏の漫画が好きな奴は絶対就活に失敗する! けど、そんな漫画を描いている当人は過去に就職の経験があるからわからないもんだね、世の中。こと鬼頭莫宏先生の読みきりが載ってた。
 少年がふと人を殺したくなったのだけど、いかんせん、この犯罪者には理解の有るご時世、いつ誰を殺しても、それらしく意味付けがされてしまい、そんなわかりやすいカテゴライズは御免被りたいがために、人を殺してもゴタゴタ言われないように立派な人間になって、そこそこ恵まれた無関係の子供を殺そうとする話で、タイムリーと言えばタイムリー。
 扱っているテーマはいつも通りなのだけど、読んでいてどこか懐かしい感じがあったのは、この作品全体に星新一的な匂いがしたからである。
 ラストの展開はもちろんのことながら、ふとした思い付きから、本来の目的とは関係の無いような努力を始め、有る程度の成功を収め、その立場に満足しながらも、最後には当初の目的通り、包丁を持って少女の所に赴く。このように理屈が先行して、一切感情に左右されないどこか非人間的な所が星新一そっくりなのである。ラストの乾いたモノローグもどこか星新一っぽい。 星新一にこんな話があったよねと言って、この作品の粗筋を話したら、大抵の人は信じてしまうに違いない。
 鬼頭莫宏という作家は結局のところ、どんなに理詰めで話を展開しても、最終的には情に訴えたり、明確な答えを出さないような作品を描く人だと思っていたのだが、こういうすっきりした話も描けるのかという驚きと、下手するとありがちなショートショートに陥ってしまうようなアイディアを、この人らしい独自の作品に仕上げるオリジナリティ、そして人が死んでいるのに、全く後味の悪くない話の見せ方に感嘆してしまった。
 何より、この作品をジャンプSQの読み切りに持ってくるっていうバランス感覚が素晴らしいと思う。
 買ってまで読めという勇気は無いけど、近場に包装されてないSQが置いてる店があるなら一読を勧めます。