昼間っから2ch見てるような奴の光市事件雑感

 今回の件に関して、頭の良い人々とか、法律に明るい人の意見はたくさん見られる、愚生のような蒙昧な人間は、それらの意見に肯くこと仕切りなのですが、当方のように昼間っからリアルタイムでニュースを眺めつつ、2chの実況スレをニヤニヤ見てたような糞野郎の意見は見つからなかったので、そんな糞野郎の意見をこっそり書いてみる。


 まず、2chの実況やニュー速の様子だけど、裁判中継始まって、主文後回しってところで、皆死刑キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!! と大はしゃぎ。その後、裁判官が、弁護側の陳述を一つ否定するたびに喜び、wktkしたり、いつになったら判決言い渡すんだよと愚痴りながらも、最終的に死刑判決が出たところで再び死刑キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!と大はしゃぎ。
 それでその後は「ざまーみやがれ」とか「本村さんおめでとう」「正義は勝つ!」「さっさと死ね」「今夜は美味い酒が飲めそうだ」「弁護団乙wwwwww」といった具合で、被告や弁護団に対する中傷、判決に対する全肯定的な意見が多く見受けられ、判決に否定的なコメントはほとんどなし。
 判決が出て、後多少落ち着いて、本村さんの会見が始まってからは、「この人頭良いなあ」とか「また朝日か」とかそんな感じ。
参考:http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1117161.html


 それで、こんなスレの流れをどっかで読んだ気がしたと思ったら、あれだ、内藤VS亀田の試合の時で全く同じ流れがあったことを思い出した。亀田に対して、とっとと切腹しろって皆で言ってたあれ。
 あの流れに本当そっくり。試合終了後の亀田に対する悪罵とか、内藤を讃える多くの言葉とか。
 試しに較べて見るとよい。
痛いニュース(ノ∀`) : 【光市母子惨殺】 判決は「死刑」…弁護団、ため息→上告へ - ライブドアブログ
痛いニュース(ノ∀`) : 内藤が初防衛に成功、亀田大毅切腹か?…WBC世界フライ級タイトルマッチ - ライブドアブログ

 そして、誤解を恐れず言えば、今回の裁判は亀田の時と同様、勧善懲悪のエンターテインメントとしては、完璧な流れであった。
 今回の事件に関して、被害者遺族の方は完全の非が無いことがわかりきっている。さらに、事件発生後からの今日に至るまでの行いや、決して感情を昂ぶらせる事無く、粛々と裁判に望んだ態度。非の打ち所が無い。
 それに対し、被告の側はただでさえ、犯した罪が重大であり、元から世間の心証は悪かった上に、最高裁差し戻し後の、急遽これまでの意見を翻し、突如、ドラえもん魔界転生や蝶々結びと言った、発言の数々だ。
 あれらの意見はあくまで、被害者の供述を汲み取った上での主張であり、弁護団の入れ知恵ではないということになっている。よって、あれらの主張を行った弁護団に対し、懲戒請求を行うのは原理的に正しくないのかもしれないが、弁護団に対し不穏当な思いを抱くのはそれほどおかしくはないだろう。少なくとも俺は思った。
 かくして、それぞれにはっきりとベビーフェイスとヒールのレッテルが貼られてしまった。
 そういった流れを通しての、今回の裁判である。
 まず、裁判官が死刑への期待(無論この言葉は不適切であるが、今回は実況民の視点で語らせてもらう)を煽る。その次に、裁判官が弁護団の主張を一つ一つ丁寧に撥ね退けて(わざわざ魔界転生にまでツッコミを入れたのだ)、荒唐無稽とまで言ってのける。そして最終的に死刑判決。
 完膚なきまでの勧善懲悪ストーリーである。
 ここまでくると最早、水戸黄門や遠山の金さんに近いかもしれない。庶民の生活を脅かす悪人が、罪を逃れようと詭弁を弄するも、天網恢恢疎にして漏らさず、公権力による正義のお裁きが下される。
 無論、この現実において、世の中がそんな単純に勧善懲悪で割り切れないことは誰もが承知のはずである。ただ、ここまで露骨な形を見せられると、普通にテレビで見る分には死刑が当然であると考えてしまうだろう。
 一緒にテレビを見ていたうちの母も始終顔をしかめてみていた。もしかすると彼女が顔をしかめていた原因は、事件ではなく、昼間っから家で2chを見ていた俺だったかもしれないが、その可能性は置いておく。


 そして、今回の事件に関して、勧善懲悪より重要な点として、我々は、実際の生き死にが関わっているような事件すらも、エンターテインメントとして楽しめるようになったということである。
 無論全ての人間がそうだと言うわけではない。しかし、少なくともエンターテインメントとして見ていた人間があの時、2chにいたことは確かである。そうでもなければ、人一人の死が確定するにも関わらず、軽々しくも「おめでとう」や「今夜は酒が美味い」などという意見を言えるはずがないだろう。
 
 こういった事件に対する感覚は眼に見えない形で前から存在していたような気もする。昔から残虐な事件の加害者に死刑判決が下った場合、口には出さなくともある種の感情を胸に抱く人はそう少なくは無かっただろう。だとするならば、それが今回は匿名で発言、さらにはコミュニケートすることが可能になったおかげで顕在化してしまっただけである。
 
 これに関しては命が軽くなったとか、不謹慎だなどと色々なことが言えるのであろうが、正直俺は良いとも悪いとも言う自信がない。人の命なんて時代によって、いくらでも変わるのだから、そういう時代になってしまったのだろうとしか思えない。
 かく言う俺もそうやって事件を消費していた節はある。
 新聞やニュースを見た後で、今回の事件に関して書いているblogや掲示板もそれなりに読んだが、五年後にはわざわざ調べた被告の名前も被害者の名前もあっさり忘れているかもしれない。
 ただ、今回の事件に関して、本村さんが朝日の記者の質問に答えて言った

 そもそも、死刑に対するハードルと考えることがおかしい。日本の法律は1人でも人を殺めたら死刑を科すことができる。それは法律じゃない、勝手に作った司法の慣例です。今回、最も尊うべきは、過去の判例にとらわれず、個別の事案をきちんと審査して、それが死刑に値するかどうかということを的確に判断したことです。今までの裁判であれば、18歳と30日、死者は2名、無期で決まり、それに合わせて判決文を書いていくのが当たり前だったと思います。そこを今回、乗り越えたことが非常に重要でありますし、裁判員制度の前にこういった画期的な判例が出たことが重要だと思いますし、もっと言えば過去の判例にとらわれず、それぞれ個別の事案を審査し、その世情に合った判決を出す風土が生まれることを切望します。

というのは覚えておきたい。
 今後、裁判員制度が機能し始めたた場合、俺も召喚される可能性はあるわけで、その際に、司法の知識などろくに持ってない俺が過去の判例に基づく判断など出来るわけない。もしかすると一緒にいる裁判官が昔はこんな事件にはこんな判決があったよって教えてくれるのかもしれないのだが、その教えられた判例に基づいて判断するのならば、別に最初っから参加する必要だってない感じはある。だが、世情なんていう不安定ななもんに安易に頼るのもどうかと思うし、俺が犯罪者だったら俺や俺と一緒に実況板にいた奴らになんか絶対裁かれたくないが。だがしかし。


 ただ、今回の事件をエンターテインメント的に楽しんで「正義が勝った」なんて言ってる人には、これだけは言っておきたい。裁判は(上告が棄却されれば)これで終わるが、物語と違って、現実にゃエンドマークがつくわけではなく、今回の事件も何らかの形で将来の司法に影響するし、本村氏の残りの人生は続いていくのである。
 一応事件には一区切りついたが、それで終わるのではなくて、そこら辺をその後もそれぞれ考えていけたらとは思う。
 

 あと、今回の事件に関して人権派弁護士に関して思うことがあった人は、今週のイブニングで『ホカベン』を読んでくると良い。ちょうど人権派弁護士が、社会正義を唱える弁護士に訴えられるという、実にタイムリーな話を扱っている。それに『餓狼伝』は佳境だし、『アザゼルさん』や『もやしもん』は相変わらず面白いし、『ヤング島耕作』にて、掃除のババアのせいで、社長に糾弾され晒し者にされる龍所長の姿には涙を禁じえない。イブニングは相変わらず素晴らしい雑誌である。二ヶ月に一度は買っても良いと思った。