一体どうして我々は雷句先生の言う事を信じてしまうのか問題

 http://88552772.at.webry.info/200806/article_11.htmlを読んで、週刊新潮はなんて酷い雑誌なんだ、こんなすぐバレる嘘をつくなんてとんでもない連中だ、ぷんぷん。と怒っていたら、http://d.hatena.ne.jp/joraku/20080627/1214529177というエントリを見て「貴様ぁぁぁぁ、雷句先生が、あのガッシュを描いている雷句先生が、そんなチンケな嘘なんて吐くはずないだろ! 雷句先生の言霊は一切が嘘偽りを含まないこの世の真実にして、世界の光!」などと思った。
 が、ちょっと冷静になって考えれば、上の方の指摘はもっともで、今回の新潮の件はともかくとして、小学館側が依然、公式声明を発表していない以上、一方だけの意見を鵜呑みにして、何故こうも雷句先生を信じてしまうのか。もしかすると、今は消された橋口先生のコメントこそが、嘘偽りの無い真実ではないのかという疑問もふつふつと湧いてきたので、向こうの方の記事にコメントした後、何故自分や他の人がここまで雷句先生側の意見を信頼するのかを整理してみた。


1.判官贔屓
 当たり前の話だが、小学館はでかい。すごい。つよい。
 コロコロしか読まない小学生に日本一の出版社はどこだと思う? などと聞けば、迷わずみんな小学館と答えるだろう。小学館はかくも偉大だ。ドラえもんも、あさりちゃんも、バーコードファイター小学館から生まれた。ありがとう小学館
 ところが、雷句先生はその巨大な小学館に単身裁判を仕掛けた。
 業界最大手の出版社対一漫画家である。
 この構図で、どちらを応援したくなるかと言えば、雷句誠側なのではないだろうか。


2.純粋な怒りによる訴え
 今回の裁判を行うことで、雷句先生自身にはほとんど利益が無い。
 『金色のガッシュ』はアニメ化、さらには映画化もし、2000万部越えの大ヒット作である。その雷句先生ならば、黙って全てを呑み込めば、小学館を去った後、どこの出版社に行っても第一線での活躍の場を与えられただろう。にもかかわらず、今回のような裁判を起こせば、今後は小学館集英社がいる一ツ橋グループはもちろん、他の出版社からも敬遠される可能性が高まる。これまでの作品で、一生食いつなぐ程度の貯金は蓄えたかもしれないが、今後も漫画化生活を続けるにはリスクが多すぎる。
 では何故このような裁判に訴えたのか。
 金目当てではない。今回の裁判で雷句先生側が請求する額は330万円。安い額ではないが、雷句先生クラスの漫画家なら、コミックスを一冊出せば、それ以上の額はあっさり手に入るのだから、金銭目的による裁判ではないだろう。
 そこには他の漫画家の待遇改善といった公憤もあれば、散々ないがしろな扱いを受けたという私憤も入っているだろう。だが決して、損得感情が絡んでいるようには思えない。
 得か損かで言えば、間違いなく損である。そこまで怒ってる人間が嘘を吐けるようには私には到底思えない。


3.雷句先生の直情的な性格
 GIGAZINEのインタビューによれば、我慢する時間は結構長いとのことだが、今回の新潮の記事でも壁をよく殴ると書かれていることや、連載中に商売道具の右手で開放骨折させてしまう辺り、どちらかといえば、キレやすい人なのではという印象がある。やはり、今回の裁判を起こした事を見る限り、計算で動くというよりは、良くも悪くも感情で動くタイプである。blogにおいても、本物がどうかが判明されてない、橋口たかしのblogや久米田康治マガジンの巻末コメントに素早く反応したり、また、最近の記事に関しても、公開後いくつか訂正を加えるなど、どうも勇み足が目立つ場面が多い。
 陳述書でもそういった点が少々見られる。ガンを飛ばされた、受話器を叩きつけられたという内容は、かなり主観的な内容が混じり、全てが本当だとは思えない。単に目つきが悪いだけかもしれないし*1、たまたま電話を切る際に乱暴になってしまった可能性だってある。
 しかし、ここまで正直に自分の感情に正直な人が、自分や相手の行動に関して、主観的であるが故に、いくらかのごまかしや誇張が混じるかもしれないが、自分の都合の良いようにゼロから相手の行動を捏造するような人には思えないのである。
 だからこそ、ガンを飛ばした、受話器を叩きつけられたといった点は別にして、客観的な証拠が残るであろう、FAXの有無や遅刻が連続したということに関しては本当なのではないだろうかと考えられる。


4.嘘を吐く必要があるのか?
 上の3つはかなり印象論である為、どれだけ説得力があるかはわからないのだが、今回の件でそもそも雷句先生が嘘を吐いてまで悪評を広める必要があるのかと言えば、多分無い。
 嘘を吐くメリットがほとんど無いということもあるが、それ以上に、下手に嘘を交えた結果、嘘ががバレた際に、他の本当にあったことも嘘だと見なされてしまうという、デメリットが大きすぎる。
 弁護士の方も関わっている以上、やはり雷句先生の発言が嘘八百だという理屈は納得できないように思われる。


5.雷句先生側だけでなく、サンデーというか小学館側に漫画家との軋轢がちらほら見られる。
 ここで、沈黙を守っているサンデー側と雷句先生以外の漫画家の関係についても考えていきたい。
 まず、『烈火の炎』、『MÄR』でヒットを飛ばした安西信行先生はblogにて

編集長、編集部の方向性、態度、最近の誌面を見るに
安西の居場所はあそこにはもう無いのだと判断しました。

もしまた漫画描きたくなった時には他誌の新人賞に
投稿するところからやり直す事にしますか(笑)


もちろんペンネームでwwwww


編集
「うーん・・君、安西信行の影響強いね。」

増留単
「m9(^Д^)プギャーーーー」

 
 こんなことを書いていたそうです。(参照:http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/945839.html

 で、大変恐縮ですが、これから全然安西先生と関係ない話をします。
 雷句先生の陳述書によれば、サンデーの編集の方が雷句先生を引きとめようとする際に、

 「いるじゃないですか・・・一回もうサンデーでは描かないといって、また戻って描く人が。」

 と仰られたそうです。いやぁ、そんな人いるんですかねえ。雷句先生を引き止める為のハッタリで、実はそんな人どこにもいなかったりするんじゃないんですかねえ。
 で、話を戻しますが、安西先生の『MiXiM♀12』は現在週刊少年サンデーで好評連載中です!
 誰かはてなキーワード安西信行を更新してあげてくだしあ><
 他にも小学館漫画賞を受賞した『ワイルドライフ』の藤崎聖人先生は自身のblogにて

「5年間ワイルドライフを描いてきて ぶっちゃけ心の底から"よかった"と思ったことなど ひとっつもないくらい、忘れたいくらい いい思い出のない作品」

 と書かれておられたそうです。(参照:週刊サンデーに漫画家続々苦言 小学館はどうなっているのか - ライブドアニュース
 小学館漫画賞取ったのになぁ……

 また、最近のサンデーからは、90年代後半から2000年代前半にかけてサンデーを支えた中堅作家が離脱されているのも特徴です。
 『め組の大吾』の曽田正人先生*2、『俺たちのフィールド』の村枝賢一先生、『ARMS』の皆川亮二先生、『かってに改蔵』の久米田康治先生、皆さん講談社に行ってしまいました*3。どの作者さんもそれぞれの新天地でかなりの活躍をされております。何故これほどの才能が流出してしまったのか。
 また、他にも新條まゆ先生を始め、他の漫画家業界関係者の方々がblogなどで痛烈に小学館を批判したりしています。
 無論、彼らの意見を鵜呑みにするのもどうかと思いますが、彼らが全員口裏合わせて嘘を吐いているのだとしても、それだけ恨みを持たれる時点で、小学館にはかなり問題があるのは確かでしょう。雷句先生の言う事の全てが紛れも無い真実だとは思えませんが、小学館がここ数年の間に、目には見えない問題を抱えていたのは事実だと思われます。
 

6.皆ガッシュが大好き!
 俺は特にウマゴンとティオが好き! 


 これら6つのことを総合しますと、一方だけの意見を鵜呑みにするのはまずいとしても、やはり、雷句先生の言ってる事は正当性があるのではと自分には感じられます。もっとも、自分も感情的にこの件を見ていることは否定できませんが。
 無論、多くの方が批判をしながらも述べられている通り、小学館にも真面目な編集の方はいるでしょうし、私は最近のサンデーが嫌いではありません。
 だから、雷句先生にも裁判と新作を頑張って欲しいのですが、一方でサンデー編集部には雷句先生側が訴えられるような問題があるならば改善して欲しいし、仮に問題がないのだとしても、多くの漫画家の方々にとって居心地の良い、そして読者にとって面白い雑誌を作ってくれることを期待します。

*1:もっとも松永豊和氏はそのような編集者は確かにいると書いていたが。

*2:コメントで指摘されましたが、曽田先生はサンデーを離れた現在も小学館での仕事を続けていられますし、元々は講談社でデビューしてその後も色々な雑誌に移られておりますので、ここでサンデーから離れた作家の例に挙げるのは少し違うかもしれません。

*3:皆川先生は集英社でも描いてるけど。