今年面白かった小説とおまけ
- 今年面白かった小説
今年といっても覚えているのがここ三ヶ月のみだったので、最近読んで面白かった本を書いてきます。売れてる本しか読んでないです。来年からは読んだ本をきちんと手の甲にメモしたりしていきたいです。ちゃんと油性で。
- 作者: 湊かなえ
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2008/08/05
- メディア: 単行本
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何はともあれ、これ。
発売当時は、タイトルと学校という舞台、書店員からのコメント――うちの棚を用意してあげますから、コメント載せてくださいよ。ちゃんと褒めますから。そっちも本の帯に好意的なコメントが載って、平積みになって評判になる。こっちも書店の宣伝になるし、コメントが載ってHAPPY! win-winじゃないですか。どうですか?……みたいなことやってから、書店の売上げがどんどんamazonに圧迫されんだよ! 読者は別に毛が三本足りない書店員のコメントなんか求めてないんだよ、バカ!――から察するに、「あれだ。後味が悪いって言っても、最後は勧善懲悪で、ジャリが先生に泣きついて、『うわーん、せんせー、行かないでー!』みたいに感動する話だべ」って思ってスルーしたら全然違って、本当に胸糞悪い話で、読んでてにっこり。
ミステリーっていうジャンルの多くは扱っている題材が何かしらの犯罪であるため、作品の中に悪意を含まざるをえないのだけど、これだけ露骨に悪意を前面に出している小説は珍しいというか、事件の内容やキャラクターの書き方だけではなく、本来の事件とはどうでもいいところに、悪意を含んでいるから性質が悪い。あと、全体的に陰湿。
例を挙げると、犯罪の経過をブログに書き込んでいた未成年の犯人(ハンドルネーム・ルナシー)の報道に対する発言。
ブログでルナシーと名乗っていたとしても、実名を少年A、少女Aと表すのなら、その部分もモザイクをかけて、ヌケ作だのノグソだの、みっともない仮名を付けてやればいいのです。(中略)ルナシーと名乗る少女、みんなはどのような容姿を想像しているのでしょうか? 冷静に考えてみてください。美少女が自らルナシーなどと名乗るでしょうか?
先生、それは少年犯罪者だけじゃなくて、ネット上のかっこいいハンドル持ちの人たちも敵に回してます!
こんな感じの愉快な文章が随所に飛び交ってるので、根性の悪い人は皆読めば良いと思うし、もちろん作中に多々含まれている悪意だけではなく、ミステリーとしても実はバークリー並みの多重解決ものでありながら、後期クイーン問題を含んでるような気がしないでもない。
あと、ラスト3ページとウェルテルが色紙を渡しに行くシーンは何回読んでも笑える。
ちなみに作者の人は、こんなもの書くぐらいだから、よっぽど悪い奴に違いないと思ってたら、青年海外協力隊に行ってるぐらいの良い人らしいので、人間ってのは本当わからないものですね。
- 作者: 伊坂幸太郎,花沢健吾
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/10/15
- メディア: 単行本
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帯とかには何も書いてないけど、実は『魔王』の続編なので、読む前に『魔王』を読んでないと、こいつら誰よって感じになったりするので、最近文庫化された『魔王』をサンデーの漫画版と一緒に読めばいいんじゃないかしら。かしら。サンデー版にはもう『モダンタイムス』のキャラ出てくるし。
クイックジャパンのインタビューによると、担当との打ち合わせの際にとりあえず2週間先まで考えて、続きは2週間後にまた考えようというスタイルで書かれたためか、物語に連載特有の躍動感が生まれたと同時に、序盤の結構重要な伏線が消化できなかったり、最初と終盤で明らかに性格が変わってるキャラがいるけど面白いから問題無いよ!
気にしない! 気にしない!
イラスト無しの通常版と花沢健吾のイラストが載ってる特別版があるけど、個人的には特別版の方が良かったというか、花沢健吾が描く「井坂好太郎」は現実の作家「伊坂幸太郎」と小説に登場する気障で厭味ったらしい作家「井坂好太郎」が混じりあった大変良い表情を醸し出してるので、これだけでも一見の価値あり。
今後はこういうイラストの有無を読者が選べる売り方ってもっとされても良いと思うんですけどね。『シャングリ・ラ』も文庫化されたのなら、一緒に吉田健一のイラストがついたバージョンをスニーカーから出せばいいじゃんとも思うし、桜庭一樹の『荒野の恋』とかも何だかなぁとは思う。そんなに挿絵なしで売りたいなら、富士見ミステリーも無くなったことだし、ハードカバーイラスト無しで『GOSICK』売ってみやがれって思うデスね。
どうでもいいけど、監視社会になりつつある現代への批判を含んだ作品の中で、「痴漢は死ね」という台詞を書いていた伊坂ちんが性犯罪者にGPSに対してどのように考えるかはちょっと気になる。
- 作者: グレッグイーガン,山岸真
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2008/12/02
- メディア: 単行本
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読み終わった直後の感想が、上のコメントと全く同じで吹いた。
もし、今のイーガンが「悪魔の移住」を書くのであれば、あの作品の後、意識を持った脳腫瘍を今度は人間にくっつけて、人間の脳と腫瘍が意識とアイデンティティを奪い合ったあげく、ナノマシンを脳に注入して制御、神経をいじることで互いに幸せになって良かった良かったというところで、急遽別次元から世界の法則を揺るがす謎の数学パワーがやってきて、世界の法則が乱れるってところで、その脳腫瘍をさらにスーパーコンピュータに直結して、多次元世界を制圧するぐらいはやって欲しいですね。
「何すか、そのイーガンを読んだばっかの中二が考えたようなSFの設定は」
「けど、中二でこれだけ思いついたら結構凄くね?」
「いや、あんた中二じゃないでしょ」
「けど、俺まだ『BASTARD!!』で抜けるよ?」
「じゃあ中二でいいや」
それはそれとして、ところどころに挟まれている体育会系へのDISが強烈で吹いた。例えば「悪魔の移住」では
三階から十一階は診察室だ。神経科医、内分泌科医、婦人科医、リューマチ専門医。早い話、過去どこにも例がないほどすばらしい、無能な元大学ラグビー選手の一団が集められてるってこと。
この後も、医師たちに対する罵倒が綿々と続くし、「散骨」では
「もし犯人が捕まることがあったら」とフットボール選手がいう。「死刑はダメだ。二、三日拷問して、歩けなくしてやればいい。両脚を切り落とすとかな。そうすりゃ、ひとりじゃ脱獄は無理だし、結局は例によって一、二年で釈放されるだろうが、もう誰も襲えなくなる」
なんていう絵に描いたような俗物をフットボール選手として登場させるし。
極めつけは遺伝子を操作することで、意図的にIQの低い子供を作ることができるというくだり。
アンジェラは眉をひそめて、「知性を意図的に落とした子供を作ったということ?」
「落ちついてください。その子たちの親は、オリンピック選手を望んだのですよ。その子たちが、二十ポイントの低下分を惜しむことはないでしょう――じっさい、そのおかげでトレーニングがあまり苦でなくなると思われますし。(後略)
いや、この発言はどう考えてもダメなんじゃないかな。
アスリート達に対して色んな偏見を含んでるんじゃないかな。
しかし、こうした体育会系への批判が、身体性への拒否に繋がり、『順列都市』や『ディアスポラ』に繋がっていったと思えば納得いくし、イーガンがハイスクール時代に体育会系の奴に、いじめられていたとしても納得がいく。
- 作者: ウィリアム・ゴールドマン,佐藤高子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1986/05
- メディア: 文庫
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読もう、読もうと思って4年ぐらい経って、ようやく読んだら面白かった。
作者のゴールドマンが子供の頃父親に読んでもらった小説「プリンセス・ブライド」を息子に読ませてみたら、息子はつまらないというし、自分で読み返してみてもつまらない。どうやら父親は面白いところだけをところどころ抜粋して話していてくれたらしい。というわけで、自分で父親が語ってくれたように抜粋し、編集したのがこの『プリンセス・ブライド』です。という説明を冒頭50ページ使って語る上に、話の本筋が始まった後も、ちょくちょく顔を出して、「俺がこの場面を昔親父に読まれた時はねえ……」などと語りだすという素敵な構成。
もちろん、本の存在から息子の存在までが一分の隙もない捏造であり、メタフィクションを書くこと、嘘を吐くってのはこれぐらいやらなければいけないのかと大変勉強になりました。あと、散々これは傑作だ。俺の人生を変えた! と大風呂敷を広げただけあって、本筋の「プリンセス・ブライド」自体も普通に面白いです。
- 作者: 伊藤計劃
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2008/12
- メディア: 単行本
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あまりの面白さに、思わず計劃を辞書登録してしまったほど。今年読んだSFで一番の傑作かもしれない。何読んだか大して覚えてないけど。
SFってのは、現実が未来に行けば行くほどどんどん狭く深くなっていって、例えばいまさらロケットを飛ばして土星に言ったらそこには土星人が。みたいな話を大真面目に長編でかけないじゃないですか。つーか、土星ってガスだし。
そういうことを書いたのが、ギブスンの「ガーンズバック連続体」なのだけど、ギブスンが語った未来も21世紀になったら昔になって、そこら辺の八百屋から女子高生まで、携帯電話を持って他人と繋がってる時代に、電脳空間とかオノセンダイとか言われてもさぁ。
だから、今サイバーパンクの過剰さを表現するには、それ自体をギャグにするか、あるいは漫画・ゲーム・映画のようなメディアで文章では過剰になる部分を、絵や映像で表現するしかない気がする。
今、小説でサイバーパンクのようなアイディアを書こうとしても、今扱って不自然ではないガジェットでは、目に見えない部分のわずかな変化しか描けなくて、そういった意味では、この小説もサイバーパンクとして読むには結構厳しいのではないだろうかと。
それでもこの小説を傑作だと思うのは、病気の無い完璧な世界に不快感を覚える、トァンの少女時代の感傷的な描写と成人して男勝りになったトァンが世界中で起こった集団自殺という清涼院流水みたいな事件の謎を追う、エスピオナージュとしての面白さが、少女時代に死んだ友人御冷ミァハを通して、見事に「調和」しているから。
その面白さが終盤まで持続するからこそ、ラストの大ネタが生きるわけで、物語全体の構成が大変綺麗にはまったこの作品を350ページという分量に収めた手腕に脱帽。
- 今年面白かったニコニコ動画
空前の幾三ブームに合わさって、TKが逮捕されてしまった事から、今年を代表する動画になったと言っても過言ではないはず。
小室逮捕前と逮捕後でコメントの内容が微妙に変わっているのが哀愁を誘う。
松岡修造が流行った現在、「くいしん坊! 万才」の系譜が山下真司から宍戸開を経て、松岡修造に繋がっている事実を踏まえて、この動画の熱血っぷりは再評価されても良いと思う。評価してどうするとも思う。
音楽のせいで、先生の演舞が空手ダンスにしか観えない! あとオリジナルを観たことが無いので、俺の中ではこれが正式な空バカのOPとして処理されています。
- 今年書いた増田
http://anond.hatelabo.jp/20080727120011
http://anond.hatelabo.jp/20080729130420
ほいじゃ、皆さんまた来年。