週刊漫画誌が亡びるとき


『新ブラックジャックによろしく』が最後の作品になると思います | ガジェット通信 GetNews

 ここら辺読んで思ったんだけど、これで本当に問題になっているのって編集者の質とかじゃなくて、そもそも週刊で漫画を描くってのが無理ってことなんじゃないですかね。
 いや、僕が子供の頃は漫画雑誌といえば、マガジンか、サンデーか、少年キングぐらいしかなかったですからね。漫画を定期的に読むとなると、その3つから選ばざるを得なくて、僕はその中から毎週キングを買って、「カネやんすげー」とか「馬場つえー」とかって言ってた世代なわけで、やっぱ漫画といったら、週刊誌っていうイメージが強いわけですよ。

 けど、週刊漫画を連載するのってものすごくキツいわけじゃないですか。
 週刊連載の漫画家といえば、家から出られないとか、睡眠時間を削って描かされるとかね、そこら辺のブラック企業よりもはるかにブラックっていう印象が強いし、それだけで充分キツいのに、さらに毎週締め切りがあって、一週間のうちに話考えて、絵を描いて、仕上げて、どうにか描き終わってもまた一週間後に締め切りで、描けてる間はそれでもまだいいけど、読者からつまんないって言われたら、あっさり打ち切りって、普通の人間は耐えらませんよ、そんなの。
 何で、こんな仕事が成り立ってかっていうと、あの頃というか、ジャンプ黄金期辺りまでは、やっぱ週刊誌じゃないとメジャーになれない、売れない、多く読んでもらえないっていう印象があったと思うのですけど、今の時代って大量に週刊月刊問わず、大変多くの漫画雑誌が書店に並んでいて、これは、読者が色々選べるのと同時に、描く方の漫画家側にも選べるって言う状況になってきたってことですよ。
 今ってネットのおかげで、面白い漫画を描けば、多少マイナーな雑誌に掲載していても、あっという間に広がりますし、それに昔だったら口コミだけで新しく買うっていうのに、いくらか抵抗があったかもしれませんが、今は漫画喫茶がそこらへんにあるし、最近だとレンタルコミックとかが流行ってるじゃないですか。いやね、僕が子供の頃もね、貸本屋というのがあって、そこで僕も『のらくろ伍長』とか借りていたわけですけど、やっぱ戦時中の当時とは違ってね、品揃えも凄いし、そういうののおかげで、軽い気持ちで読めるようになったというか、新規読者への敷居が比較的下がっているというのはありますよね。
 それに昔は大ヒットしないとアニメ化されないなんて印象がありましたが、今じゃ多少マイナーな雑誌でも、ちょっと売れれば、あっさりアニメ化されるようになったじゃないですか。wowowとはいえ、『シグルイ』がテレビアニメ化されたなんて話は、内容的にも掲載誌的にも、十年前だったらありえませんよ。
 こうやって考えると、今漫画家の人たちが、わざわざ週刊誌で描かなきゃならない理由ってかなり薄れてきてるんじゃないかなと。どこで描いてもそれほど、読者の数に差が出ないのだったら月刊誌とかで時間をかけて描いた方が身体的にも精神的にも無理がないでしょうし、作品を練る時間が増えますし、そうやって才能のある人が避けていくとなると、週刊漫画という分野はどんどん廃れていくんじゃないかなと思いました。
 そりゃ、一部の天才というか、筆が早い人は週刊でも充分面白いのが描けるでしょうけど、そんな天才って多分、一つの雑誌に多くて三人もいればいい方だし、その天才の色んなものを削って消費していくのが週刊漫画の世界ですし、最近でも小林まことの『青春少年マガジン1978〜1983』で、当時の漫画家がどれだけ過酷なスケジュールに耐えてきたか、さらに当時の人気作家がどのような悲惨な晩年を送ったかっていうのが描かれていましたからねぇ。
 けど、読者としてはできることなら毎週読みたいし、出版社的には週刊誌の方が採算を取りやすいというのがありまして、その為に漫画家や雑誌側がどんな努力をしているかを一部紹介。


手を抜く

 手抜きと言って怒るなかれ。たとえ、全身全霊をこめて描いたとしても、つまらなかったり、締め切りに間に合わなかったりしたら意味が無いのが漫画の世界。ようは面白ければいいんですよ、面白ければ。
 例としては『ドラゴンボール』のスーパーサイヤ人。ベタを塗るのが面倒であんなデザインにした結果、あそこまでかっこよくなってしまうのが鳥山明の天才たる由縁。
 ちなみに、『ドラゴンボール』は思い返せばびっくりするぐらいスキンヘッドのキャラが多いのですが(亀仙人、ピラフ、クリリン天津飯、ピッコロ、ナッパ、フリーザ、その他)、これは鳥山先生が描きやすかったからだと考えられます。これを裏返すと、ヤムチャが初期に主人公のライバルでありながら、最終的に(笑)に落ち着いたのは黒髪長髪というデザインのために、鳥山先生がベタを塗るのを面倒くさがったからでしょう。合掌。
 また、『SLAM DUNK』で花道が坊主になったり、山王工業のキャラが全員坊主だったのは、これに近い理由があったのかもしれません。
 そして、柴田ヨクサルの『ハチワンダイバー』。
 写植が大きいのがこの漫画の特徴でもありますが、こちらを見ると、もちろんの四文字だけでほぼ一ページを使ってます。一見手抜きなように見えますが、この大胆な吹きだしのセンスが作品に迫力と勢いを与えるのです。むやみに描き込めば良いという話ではないのです。
 また冨樫先生は『レベルE』や『HUNTER×HUNTER』で見開き、丸々文字だけと言う真似をやっています。面白ければ何をやったっていいのです。


合作する

 一人より二人、二人より三人の方が面白くなるかどうかは別として、負担の割合が減る事は確かです。
 ジャンプでは『北斗の拳』や『キン肉マン』のように、原作と作画が別のケースがありますし、最近でも『アイシールド21』や『バクマン』なんかがありますね。また、ジャンプは結構前からストーリーキング賞というネーム専門の賞を募集していたりします。
 また、マガジンでは古くから、梶原一騎原作の漫画が大ヒットしたこともあり、原作つきの漫画が多く、最近でもキバヤシ先生原作の漫画を多く読むことができますし、昔から合作でやってるCLAMP先生の漫画を読むことが出来ます。
 ちなみにCLAMP路線を徹底していくと、さいとう・たかをプロのように脚本から作画までのスタッフが揃った完全分業制に行き着きます。


掲載ペースを変える

 毎週雑誌が出るからと言って、毎週描かなきゃならないという法律はありません。
 『へうげもの』なんかは隔週連載になってますし、週刊誌というわけではありませんが、『アカギ』や『少女ファイト』は隔号れんさいになってます。
 他にも、『LIAR GAME』のように、コミックス一冊分のエピソードを連載したら、休載期間に入り、その間に単行本の作業をしたり、次の展開を練り上げて、また連載を再開するというやり方も見られます。
 また冨樫先生の場合は、休んでいる期間が、不定期すぎるため、このパターンに含めるかどうかは難しいところです。


月刊誌に移る

 そんな無理して週刊にこだわらなくてもねぇ……規制も多いしねぇ……。
 というわけで、週刊誌から月刊誌に移った例を。
 最近の有名どころとしては、『ヴィンランド・サガ』がマガジンから、アフタヌーンへ。『スティール・ボール・ラン』がジャンプから、ウルジャンに移りました。
 また作品自体が移ったわけじゃありませんが、ヤンマガで連載していた頃はあんなに追い詰められていたコメントを連発していた、ハロルド作石先生は月マガに移り『BECK』を連載し、見事ヒットさせました。
 面白い漫画はどこで描いても売れるという好例だと思います。


サボる休む

 そんなにホイホイ漫画が描けてたまっか! 描けねえ時は何をやっても描けねえんだよ!! 
 人間無理はいけません。
 無理した結果、体や心を壊してしまっては元も子もありません。実際週刊連載のスケジュールの詰め込み具合を考えると、風邪を引いて一日寝込んだだけで、その週の締め切りに間に合わなくなるということもあるので、休める時は休むことが大切です。
 最近の青年誌では毎週何かしらの作品が休載していますが、無理を押してつまらない作品を描かれるよりは、ベストの体調で面白い作品を描いてもらう方が誰にとってもありがたいはずでしょう。もっともこれをやる為には、雑誌としてもある程度安定して面白い作品が揃っている事が条件になりますが。
 それと、作品を休載してる間に、エロ描写を加筆した完全版を描いている場合はその限りではありません。早く本編を進めてください。地獄編マダー?
 また冨(略)。



 まとめ
 上に挙げたように、週刊連載というのは、大変作者に負担のかかる方式なので、多少休んだからといって青筋立てて怒ったりしてはいけませんよ。もっと気楽に読もうじゃないですか。そんなに期待したって仕方がないですよ。どうせこっちだって、つまらなくなったらブックオフに売り払ったりするんだしさ。
 それでも、なんだかんだで一読者としては毎週面白い漫画が読めると言うのは大変ありがたい話なので、漫画家さんや編集者さんには無茶をしない程度には頑張ってもらいたいものであります。