『Another』は綾辻行人版ゼロ年代の総仕上げだ!!

「ってタイトルのエントリーはどうっすかね? 勝てますって。皆ゼロ年代とか大好きだから、人が大量に釣れて、大抵の人は斜め読みして二秒で忘れるだろうけど、ひょっとしたら、そのうちの一人か二人が3年後に図書館で『Another』見つけた時に手に取ってくれるって!」
「それ何にも勝ってないよね? まず、それ俺が別に書かなくても普通に起こりうる現象だよね。ってかそんな胡散臭いタイトルで人が集まると考えてる時点で何か色々おかしいよね」
「大丈夫、大丈夫。最悪、僕と先輩で自作自演でブクマすればブクマ数を2つ稼げますから、更新してから、ずっと自分のブクマページに貼り付いて、誰か物好きが一人でもブクマした瞬間、一気に俺と先輩で3user! ブクマのトップページに躍り出る先輩のページ! それにこんな扇情的なタイトルがついていれば、この時点で注目エントリーに上がってるサイトには一通り目を通す暇な馬鹿が釣れますよ! 行けますって! これを機に時事ネタに食いついて、世間の話題に乗っかってブクマを集めるなんていうみみっちい真似は辞めて、昔からの夢だった書評サイトを目指しましょうよ! 先輩、半年に一回ぐらいは未練がましく本の紹介やってるじゃないですか。僕あれ観るたびに道端に捨てられた鼻紙を見ているような気持ちになるんですよ」
「……色々言いたい事はあるんだけどさ、とりあえず今更すぎね? ってか出たのもう2ヶ月前よ。発売後2週間ならともかく、もう『このミス』とかで散々ランクインした後じゃん、そして、お前もその結果見てから、慌てて読んだクチじゃん。後出しすぎるっていうか、後出しといえば、今更『造花の蜜』を一位に持ってくる早川のアレはどうよ?」
「『造花の蜜』は普通に面白いので特に問題は無し」
「あっそ。で、今更『Another』を紹介するってどうなのよ? 遅すぎね。ほら、師走でそれなりに忙しいってのに実家から電話かかってきて、『ポニョは見たか。あれはいい映画だぞ』とか言われた時、どう反応すればいいかわからないじゃん。今『Another』紹介するってのはそういうもんよ?」
「そんなねえ、そうやって世間の顔色とか時流とか風向きばっか窺って、一見過激に見せかけて、その実、当たり障りないことばっかり言ってお茶を濁しているから、あんたはいつまで経っても、パッとしない三流なんですよ。ほら、正直に『僕もハックルみたいに皆からちやほやされる人気者になってみたい』って言ってみろよ、この卑しいブクマ乞食が?」
「え、俺何か悪い事した? そこまで言われるぐらい悪い事した? ってか、本の紹介をしようってのに、散々ブクマとか言ってる時点で、検索で辿って来た人は右上の×押しちゃってるよね?」
「そう。だから、グダグダ言い訳してないで、黙って紹介すればいいんですよ。大体100万部売れてるベストセラーだって、裏返せば、日本国民の一億二千九百万人は読んでないんですから。だったら先輩の文章が全く『Another』を知らなかった誰かの目に留まるかもしれないし、その人が興味を持ってくれるかもしれないじゃないですか。そうなったらとりあえずは、先輩の勝ちですよ」
「けどさぁ、基本ネタバレはあんまりしたくないし、そういうのに触れないで、この作品を面白く紹介できる?」
「できる、できる、余裕っすよ。」
「例えば?」
綾波レイが出てくる
「…………」
「マジだって。シャギーショートボブの髪型、白蝋めいた白い肌。そして地の文にもある『すべての感情を封殺したような、冷ややかで淡々とした口ぶり』。どう考えても綾波ですよ」
長門じゃん」
眼帯してますよ
綾波だな」
「そう、まさに綾波名前もミサキ・メイで、音の響きもそっくり! 読んでて彼女の台詞がずっと林原で再生されました。そんな彼女が大量に作られた自分そっくりの人形の前で言うわけですよ。『私が死んでも代わりはいるもの』『多分、私は3人目だから』。どう考えても綾波ですよ。」
「半分以上嘘だよな」
「嘘ではございません。僕の記憶では大体そんな感じのことを言ってました」
「ってか、別に綾波が出てるからって読むかどうかは全然別の話だし、今のところゼロ年代全く関係ないよね」
「そう、本番はこっから、主人公の設定と舞台が正にゼロ年代
「ほうほう」
「まず、主人公の榊原君は都会から家庭の都合で田舎の中学校に転校してくるんですよ。そこで出会った生徒達は皆気さくでいい人たちなんだけど、榊原君に対して明らかに何かを隠している。そして、学校で囁かれる不穏な呪いの噂。ここまで聞いて何かを思い出しませんか?」
「…………」
「そう、お察しの通り『ひぐらしのなく頃に』ですよ…………え? 何で無言で席を立つの? 話は最後まで聞こうよ。こっからが重要ですから、マジですって、ゼロ年代ですから……そうそう、お願いします」
「さっきの綾波の時も思ったけどさぁ、作品中に、たまたま自分の知ってた作品に似た要素があったからって、これは影響を受けているとか、時代を象徴しているとかって牽強付会で結びつけるのは辞めようよ。そういうこと言う奴を何ていうか知ってる? 恥知らずっていうんだよ?」
「いや、けどね、このひぐらしにも似た設定はゼロ年代を象徴してるっていうのはガチ。マジで。」
「へー、ふーん、すごいねー」
ゼロ年代のフィクションを象徴するものは何か? それはルールとロジックです」
「そのゼロ年代ってのは99%がお前の観測範囲の話だよね」
「いいですか、たとえば『バトルロワイアル』。この作品では主人公とクラスメートたち全員に殺し合いが強制されますね。そいで、生き残れるのは一人だけ。ゲームからの離脱しようにも、彼らの行動は取り付けられた首輪で筒抜け状態。こうした状況は全て読者に対して何らかの形で明文化されます。その中で主人公である、七原は恋人の典子と共に生き残る術を考えなければなりません。あと『賭博黙示録カイジ』。オリジナルギャンブルを扱った白熱の心理戦で有名ですが、この作品で一番最初に出てくる『限定じゃんけん』。このゲームにおける基本的なルールは全て最初の巻で説明されています。よって、この漫画の読者は、実際にどのような作戦が取れるのかを考えながら読むことになります。そして、そうした読者の予想を作者は思いもよらないロジックで裏切ってくる。ルールを明確にしたことで生じる読者vs作者という構図がゼロ年代の象徴なのです。そういう意味で、正解率1%を謳って読者に挑戦を仕掛けた『ひぐらし』はまさにゼロ年代の象徴ともいうべき作品なんですよ」
バトロワカイジも、90年代の作品だけどな」
「その通りです。そして、これらの作品が90年代後半に撒いた種がゼロ年代になって花開いたと考えられるでしょう」
「たとえば?」
「『バトルロワイアル』の方の影響を受けたという作品は、たとえば『仮面ライダー龍騎』、『Fate/stay night』。これらの作品は生き残りをかけた、バトルロイヤル形式の点に注目が集まっていますが、何よりそれらの戦いが一定のルールに基づいて行われていたことが重要になるのではないでしょうか。彼らの戦いは人類の存亡をかけたようなものではなく、より大きな力に強制されたコップの中の戦争にすぎないのです。そして、『カイジ』の方はと言えば、ドラマが好評で映画化も決定した『LIAR GAME』はカイジの影響を色濃く受けていますし、また週刊少年ジャンプの人気漫画『HUNTER×HUNTER』のグリードアイランド編。あのシリーズで作者は、文字しか載っていない魔法カードの説明を見開きで4ページで行うことで、読者のド肝を抜き、さらにその魔法を読者が思いも寄らない手段で使って見せることで、さらに多くの読者を驚嘆させました。これら以外にも一定のルール下における戦いを描いた作品はたくさんありますし、また様々なルールや制約を持ち出すことで、内容に深みを与えた作品が多く露見されます」
「とりあえず、お前の守備範囲がエロゲーと特撮と漫画までってのはわかったよ」
「そうした数々の作品の中で、このルールとロジックが支配するゼロ年代を象徴すると言っても過言ではないのが『DEATH NOTE』と『ひぐらしのなく頃に』です。この二つに共通するのは何と言っても、ルールが拡張され続けることにあります。『DEATH NOTE』は最初与えられた情報は、『ノートに名前を書かれた人間は死ぬ』という大変シンプルなものでしたが、物語が進むにつれて、他のデスノートの持ち主の存在や、ノートの譲渡など新たなルールを登場させることで、読者の注目を集め続けました。一方『ひぐらし』。こちらは、同じ舞台設定に同じ登場人物を繰り返し登場させることで、前半はルールを順番に多面的に紹介していくことで、読者の興味を引きつけ、後半はほぼ明らかにされたルールを基に読者に対しての挑戦をしかける。この読者との対決する姿勢もゼロ年代の象徴ですが、何より、ルールが拡張されることによって、物語そのものも展開していくと言うのが何よりゼロ年代の物語を表しています。大きな物語が崩壊した後、90年代がキャラクターが物語を牽引する役目を担っていたとするならば、ゼロ年代はルールとロジックが物語を牽引していったと言えるのではないでしょうか?」
「知らんがな。それと『Another』はどう関係があるの?」
「ああ、ここまで言ってもまだわからないとは。先輩は何てかわいそうな人なんでしょう。ルールとロジック。そして、それを使っての読者との知恵比べそれこそがゼロ年代です。そして、ルールとロジックを武器に鳴り物入りでミステリー界に登場し、新本格ブームを巻き起こした旗手こそが綾辻行人。徹底したフェアプレイを行いつつも、その中で読者の予想を常に裏切ろうとする彼のスタイルとこのゼロ年代の流れは最高に相性が良いのです! で、こっから僕が話すことはネタバレとは言わないけど、作品の内容にちょっと触れるんで、先入観無しで『Another』を読みたいって人はブラウザを閉じていただきたい」
「ほう」





「まず、『Another』の主人公榊原君は当初その街のことを全く知りません。色々な人物から話を聞くことで、街で囁かれてる噂を知っていくのですが、ここで噂の正体を知ると、それによって、新たな疑問が生じるのです。一つの謎を解決することで、新たな疑問が発生し、謎はより深まっていく、このあたかもRPG的な構造は正にゼロ年代的物語の構造と言えるでしょう」
「あくまで『お前が考えるゼロ年代』な」
「『Another』という作品には、人を死に至らしめる、ある『現象』が登場します。何故そのような『現象』が存在するのかはわかりません。しかし、その『現象』によって死ぬ人間にはある共通点が見られるし、『現象』に関しても何らかの法則性が見出せます。そして、物語のお約束として主人公の榊原君も死の危険性に晒されます。そうした状況の中で、如何にして『現象』から逃れることができるか。こうした一定のルールに則った中で如何にサヴァイヴするかというのはまさにゼロ年代の象徴と呼べる作品ではないでしょうか」
「どっかで聞いたようなタームを使って、無理矢理ゼロ年代に結び付けようと努力しているのはわかった。で、それは面白いの?」
「間違いなく傑作です。ある一定のルールを組み立てた上で読者の上を行くロジックを用意すると言うのは、綾辻行人の真骨頂です。数ある綾辻行人の作品の中でベスト級と言っても過言ではないでしょう」
「……ところで、お前の中での綾辻のベストって何?」
「『どんどん橋、落ちた』。」
「駄目だ。こいつ。全く信用できねえ」
「ああ、てめえぶっ殺すぞ?」
「あと、途中から話が『ぼくのかんがえたゼロ年代』になってた気がするんだけど、これ作品のレビューとして正直どうよ?」
「とりあえず、僕と先輩で2ブクマは確定! あとはゼロ年代って言葉で脊髄反射した奴が騙されてブクマしたり、本を勝ったりすれば僕達の勝ちです!」
「…………今回も失敗かなあ」

Another

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