『謝る力』

 なんでも連休の真っ只中だというのに、勝間和代とかいう自己啓発だか、スピリチュアルだか、具体的に何をやってるかわからないけど、貧乏人から金を絞って儲けているらしい人のblogがボーボー燃え盛ったらしく、おしゃまさんの私としては「何で連休中に燃え盛ってるの? 皆もっと他に楽しいこと、ハイキングとか美術館巡りをすればいいじゃない」と思っていたら、私と七つ年の離れた兄が「馬鹿だなあ、みんな金が無くてピーピー言ってるこのご時世に連休なんてものを与えられたら、金がかからない手軽なレジャーとしては他人のblogを燃やすぐらいしかないじゃないか」と説明してくれた。だが待って欲しい。兄さんは私が小学生の頃に交通事故で死んだはず…………じゃあ、今目の前にいるこの男は…………!
 とまあ、そういう話は本題に関係ないし、そもそも俺には兄なんかいないのでどうでもいいとして、GW中は金がなくて特にやることがなかったので、鼻糞ほじりながら、この炎上はどこまで行くのかなあ。それにしても、みんな「謝罪しろ謝罪しろ」と、まるで『2chのハングル板でよく見られる頬がとがった人のAA』*1みたいな発言をしてるけど、どうなのかね? 勝間が謝ったところで賠償金がもらえるわけでもないのにねえ、とぼんやり眺めてたのですが、GWが終わった今日、とうとう勝間先生が謝ったようですが、大して鎮火されておらず、一体何が問題だったのかを、他人の炎上を酒の肴に考えてみようという話であり、この機会に謝罪の大切さと言うものを考えていきたい。

  • 謝罪をする上で二つの重要なポイント

 謝罪に関するエピソードで世界でもっとも有名と思われるのは、メリケンの初代大統領のワシントンの逸話で、こいつが小学生の頃に親父の桜の木を斧でへしおっておきながら、「父さんごめんなさい、桜の木を切ったのは僕です」と言うや、こいつの親父が「OH!グレート!*2 よく正直に話したジョージ。褒美にお前をこの国の大統領にしてやろう」みたいな例のアレ。
 これを参考にして、正直に悪事を白状してみると結局怒られてしまい、結果「Don't trust over thirty!」と子供たちの心に世代間闘争の種を植付けるきっかけになりがちで、そもそも手違いや事故で折ったならともかく、わざわざ斧を持ち出して桜の木を折るという悪意に満ち溢れた行為を、謝ったぐらいで手打ちにしてしまうというのはいまいち納得がいかないところですが、この話にもそれなりに見るべきところはあって、謝罪の際に気をつけなければいけないことが二つぐらい隠されている。
 一つは謝る際に何が問題になっているかを正確に把握すること。
 そして即座に謝ること。
 一見簡単で当たり前に見えるようなこの二つが実はなかなか難しかったりする。
 たとえばもしワシントンが父親に自分がやったことを突き止められるまでしらばっくれたあげく、「勝手に斧を持ち出しちゃってごめんな、親父。やっぱ子供が刃物を使ったら危険だよね……」などとのたまったら、 乳歯が全部抜けるまでぶん殴られたことだろう。
 そして、今回謝罪に踏み切った勝間和代も勇敢ではあったが、惜しむべきことにこの二つが守られていなかった。
 

 まず、謝罪の内容に関してだが、一見、箇条書きでポイントを抑えているように見えるが、「こりゃだめだ」や「夫婦喧嘩みたい」というわかりやすい失点部分を挙げただけで、実際の対話の内容に触れるのを避けている。
 こういう形では、「いや、それもあるけどさあ……もっと他にもIPのこととか色々おかしいところあったよねえ」と相手をつけあがらせることになってしまい、却って逆効果である。
 そして、速度の問題。
 今回の場合、これが致命的だった。
 炎上してから謝罪するまでにかかった日数は3日。たった3日じゃないかという人もいるかも知れないが、ネットの世界はドッグイヤー
 さらに、炎上が始まってから、そのことについては触れようとせず、番組の内容とは関係ないエントリを連続して挙げたのも痛かった。関係ない話で、炎上の勢いを押し流そうとしたではと邪推するところではあるが、燃え盛る火は新たなるエントリのコメント欄も舐め尽し、炎上の勢いを強めることに。
 このように謝罪をしても、タイミングや手法を間違えると、却って上手くいかなくなるのだが、ではどうすればいいのか。
 ここで、良い謝罪の見本として、同じくGW中にblogが炎上しながらも、見事に鎮火に成功した例を紹介しよう。
 オリエンタルラジオ中田のblogである。

  • 炎上を阻止した老獪な呟き

 オリエンタルラジオ中田敦彦は、GWの最終日NHKでやっていた、『今日は一日アニソン三昧』にゲストとして出演するが、その際にエヴァの話ばっかりしていたら、「てめーの話は聞いてねえんだよ、さっさとアニソン流せや」とアニオタたちからの怒りを買い、ラジオ出演中にblogが炎上するという憂き目にあった。
 しかし、中田はその状況を知るや否や、即座にtwitterで反応。

炎上かー!いろんな立場の人、すまない!ただこっちはこっちで、求められていることを全うしたし、現場すごくいい雰囲気で終われたから無反省!!楽しかった!!番組の影響力に感服あるのみ!!おつかれさん!!
http://twitter.com/picolkun/status/13416214209

 まず、現在ネット上で個人が最速で情報を発信できるtwitterを使ったのが上手い。
 この謝罪をblogで行おうとすれば、blogを書き出すまでに時間がかかってしまうところだが、twitterなら携帯から即座に書き込める。さらにblogで謝罪する場合、ある程度言葉を積み重ねなければ、「短い! 本当に反省しているのか!」とさらなる難癖をつけられるところだが、twitterであれば140文字以内で謝罪を済ませることができる。
 その上で140文字を全て謝罪に費やすのではなく、「状況把握→謝罪→弁解→開き直り→感想→賞賛→労い」とテンション高く畳み掛けることによって

・いろんな立場の人、すまない
(まず不特定多数に謝罪。これで「誰これには謝っていないという」言いがかりを回避)
・ただこっちはこっちで、求められていることを全うしたし、現場すごくいい雰囲気で終われたから無反省!!
(怒られるのはわかるが、他にやりようがなかった。悪気は無いと弁解。問題があるとすれば起用したスタッフにあると仄めかす)
・楽しかった!!番組の影響力に感服あるのみ!!おつかれさん!!
(番組を称えることで、オタクたちの振り上げた拳の降ろしどころを失わせる)

 と自らの問題点を認めながらも、その責任を横に流すことで見事に消し去ってしまった。
 一見テンション高く、開き直っているように見せつつも、責任をアウトソーシングする狡猾な文章。中田敦彦ただものではない。
 こうやって開き直れたのも、オリラジがアニオタ相手に商売をしていないからかもしれないが、一度炎上したblogを爽快に片付けるのはなかなか難しい。
 我々はオリエンタルラジオの武勇伝からもっと色々なものを学んでいけるのではないだろうか。

  • 結論

 一般人のblogが炎上する機会なんてなかなかないのだが、何かあったら即座に謝ってしまうのをお勧めする。日本人は何だかんだで情に弱いので、謝っている相手に批判を続けるのに抵抗を感じられるものなのだ。一度謝ってしまえば、周りの人間も「まあまあ許してやんなさいや」と勝手に判官贔屓のようなものを始めるし、それでも、相手方がこちらを責めようものなら、相手方に「謝っている人を容赦なく責める人非人」というレッテルが貼られ始めることになり、責められれば責められるほどこちらが有利になるのである。
 その証拠に一時期はあれほど叩かれていたのに、「反省してま〜す」と改悛の情を示した国母選手を悪く言う者は今となっては全然見当たらないではないか!
 ま、blogの炎上に限らず、日常生活でも『謝る力』というのはなかなか大切なもので、謝らない状況にいられれば何も言うことはないのだが、人間誰でもしくじりを犯すもので、そうした際に備えて『謝る力』というものを鍛えておくことが肝要である。さらにこの『謝る力』を上手く応用すれば、相手に許されるだけではなく、頭を下げてみせることで「この人はちゃんと自分の非を認められる人間である」と己の器を大きく見せることもできるし、下の人間が謝っている際に「そんなもんでてめえのやったことが許されると思ってんのか!? このタコが!」と上の人間が過剰に暴力を振るって見せることで、本来謝られているはずの人間に罪悪感を感じさせることだってできる。
 まあ、世の中謝ったり、自分の非を認めたらアウトってなケースってのも、何でもかんでも謝りゃ良いってもんでもないが、そういうのを見極めるのも『謝る力』というやつであり、どうでもいいことで揉めそうだったらとりあえず謝っとけばいいのではないだろうか。

 参考動画

*1:政治的に気を使ってみた表現

*2:エロ漫画家