同人誌を作るってさ

 先日の連休に、蒲田だか青山だかよくわからんが、東京都の某所で文学フリマなどという催しが行われ、毎週がGWであり、毎日家に篭って、本を読んだり、喜多ちゃんを追い掛け回したり、足の爪の先っぽの白い部分をペリペリしたりと、孤独な生活を送っているとたまにどうにも人恋しくなったりするもので、誰か知り合いはおらんかねと、マヌケ面をぶらさげて、ノタノタ行ってみたところ、大学時代の知り合いが詩集を売っており、明らかに売れている様子が無く、本人にその気は無くとも本が売れぬことから生じる負のオーラが自然と漂い始め、その雰囲気が人を遠ざけますます本は売れない。僕としてもそのようなオーラの持ち主に近寄りたくはないので、なるべく向こうに気づかれないように通り過ぎようとしたのだが、一瞬だけ目が合ってしまい、そのことが何故だか無性に恥ずかしく、早歩きでその場を去った。こんなところにいては人間ダメになるばかりだな。大人しくDVDでも借りて見てりゃ良かったな。などという思いを強くし、よし帰ろう。と思ったところで背後から声をかけられて、振り向いてみれば、僕と同じくはてなでblogを書いている……いや、この場合書いていたといった方が正しいだろう。更新しないbloggerなど死人同然である。かつて武神愚地独歩は言った。
「地上最強ってのはよォ、闘い続けそして勝ち続ける者のみに許される称号なんだぜ」
 bloggerも一緒である。bloggerという称号を名乗る為にはきちんと日々更新しなければならないのだ。たまたま暇だからといって、三日連続で更新したぐらいで得意になっている人間が軽々しく名乗るべきではない。そのような奴は大人しくtwitterでもやって、ほんの些細な書き込みをきっかけに身バレしてしまえばいい。
 話を戻すが、僕に声をかけた人物の正体は、はてなのidを持っているA氏とH氏であった。この後、特に用事があったわけではなく、三人とも既に必要なものを買っていたので、とりあえずこんな蒲田だか青山だかよくわからん僻地を離れ、飯でも食いに行こうという話になった。食事をしつつ、互いの近況を話してみれば、「ダークソウル全然面白くねえわ。三百時間やった俺が言うから間違いない」とか「お前らはさ、岩井俊二馬鹿にしてるけど、岩井俊二の凄さを全然理解できていないよね。最近良かった映画? 『王様ゲーム』6回観に行った」とか「iPhoneの電源切れたんでもう帰りたいんだけど…………ところでお前らモバゲー始める気は無い?」と、三人とも素面だというのに、生産性の無い不毛な話ばかりを繰り広げ、「これ以上、こいつらと話していても特に得るものは無いな」と互いに気づき始めたところで、空気を読んだH氏が「せっかく文学フリマというイベントでこうして集まったのだから、次回は我々も同人誌を作って参加しよう」などとろくでもないことを言い出した。それを受けてA氏も言った。「とりあえずサークル名から決めよう」
 あ、このパターン知ってる、ろくに楽器も弾けない中学生がとりあえずバンド名を決めようとするアレだ。
 しかし、混ぜっ返しや揚げ足取りは得意だが、まともな議論では易きに流れることには定評のある僕だ。「うん、悪くないんじゃないかな」「それで良いと思うよ」と、内心疲れたし、iPhoneの電源切れたからもう帰りたいと思いつつ、適当に流していたら、次回の秋の文学フリマに同人誌を作って参加。原稿落とした奴は罰金二万円という具体的なノルマまで決まり、「お前ら黙っていると、いつものように途中でバックレるだろうから、ちゃんと逃げられないように、来週の木曜までに決起文書いとけよ」という流れになった。
 そして、今こうしてこのような文章を書いているのだが、何を書けばいいのか、そして何か書いたところで誰が読んでくれるのだろうか、わずか数百文字足らずのblogすら書くことが困難になってしまった我々が、小説というものを完成させられるのだろうか、詩集を売っていた知人はどのような思いで詩を書き、あの場に座っていたのだろうか。と、と考えれば考えるほどに憂鬱になり、何もかもが嫌になりつつあるが、それでも生きていかなければならないし、昔は何かしら書けたのだから、今の俺にだって書けないはずはない。と無理やり空元気を引きずり出し、かくして良い年した連中がろくにノウハウもわからないまま同人誌を作ろうとする、陰鬱な物語がここに幕を開けたが、この決起文を書いた直後から幕引きしたい気持ちでいっぱいだったりもして。