読んでいてもたいして良いことはないSF名作私選十作

 こんな記事が話題になっていた:
読んでないとヤバイ(?)ってレベルの名作SF小説10選
http://d.hatena.ne.jp/Rootport/20130511/1368241656

 「読んでないとヤバイ(?)」とかいかにも釣りっぽいタイトルをつけたあげくに、載っけている内容は有名な作家の有名な作品オンリーという、このクソつまらなさ。これだからNAVERまとめはどうしようもないって俺は言ったんだよ!…………あ、これNAVERまとめじゃないの。一人の人間が書いたの。本当に? 人工無脳か何かに書かせたとかそういうオチだったりしないの?
 いや、だってさ、だってですよ、チミ。別に名作を上から順番に選んだらこういうラインナップになるのはある意味仕方ないかもしれないよ。けどさ、だったらそれなりに紹介の仕方ってもんもあるだろうよ。もう明らかに適当に鼻くそほじくりながら書いたようなのばっかじゃん。

20世紀前半のSF小説は雑誌連載が主な発表の場であり、内容も軽くて読みやすい荒唐無稽な物語が好まれていたらしい。バローズの『火星のプリンセス』シリーズや、たくさんのスペース・オペラが生み出された。ところが20世紀半ばを過ぎると、ただの娯楽にとどまらない、示唆に富んだ作品が書かれるようになる。

ジョージ・オーウェル『一九八四年』は、そういう社会的なSFの走りだ。世界観の見せ方がとにかく上手く、緻密な心理描写のおかげで作品世界へと没頭できる。本作は「全体主義国家の恐ろしさを描いた」と評されることが多いが、オーウェルが描いたのは恐怖ではなく、むしろ「自由」のすばらしさだと私は思う。

 何よ、これ? 紋切り型の適当な言葉ばっか書いて、『一九八四年』読んでない人には肝心の作品内容がびた一文伝わらないじゃんかよ。しかもちょっと文章いじるだけでそのまんま『動物農場』の紹介とかにも使えるじゃんかよ。

「SF御三家」の一人で、科学雑誌に論文を投稿してしまうぐらい科学に精通していた。キューブリックの映画『2001年宇宙の旅』の小説版が有名だが、元になるアイディアは『幼年期の終わり』に凝縮されている。

 これに至っては、小学生がwiki見て書いた読書感想文並である。結局『幼年期の終わり』という作品の何が素晴らしくて、何でこれを読んでないとヤバイのか全然わからない。この紹介読んで、この本を手に取ろうと思う奴はいるの? ってか、君は本当にこの本を読んだの? とか言いたくなるレベルである。
 そもそもである。SFを読んでいないとヤバいなんてケースはまず存在しない。SFを読んでいたおかげで受験に合格しましたとか、SFのおかげでキャバ嬢と店外デートオッケーもらいましたとか、そういう話は存在しないのである。普通に生活する分にはSFなんて読まなくても生きていけるのだ。
 だが、ある例外的な一点において、SFを読んでいなければヤバいというケースが存在する。
 それは他のSFファンと対峙した時だ。
 孔雀が互いの背中の羽の美しさを競い合うように、SFファンも読んだ冊数で互いの力量を誇示するのである。
 こんなことを言うと善良な巷のSFファンが「そんなことはないよ」とか言ったりするけど、そんなごまかしを真に受けてはならない。そんなことないことはないのだ。もうこれは事実である。地球が丸いのと同様に、SFファンは読んでる冊数や観た映画の本数を自然と競い合うのだ。別に大して読んで無くても凄い人だっていくらでもいるけど、そういう問題ではない。他のSFファンと出会ったら読んでいる冊数で互いの力関係や敬語の有無を決める。そういう種類の生物なのだ、奴らは。
 だから、SFを読んでいないと他のSFファンに出会ったときに舐められるのだ。一度舐められたら、終生取り返しがつかんのがSFの世間である。これはヤバい。
 とはいえ、数だけ読んでいれば良いというものではない。
 むしろ、下手に名作の名前を挙げてしまったら、「ふうん、やっぱり初心者はそういうところから入るよねえ。わかるわかる」などと半笑いで言ってくるのがSFファンと言う人種である。本当嫌な奴らだな、SFファンって!
 とにかく、何を読んでいるのかというだけでも人間心理のせめぎ合いが生まれ、いつの間にか勝敗が決まってしまうのがSFファンとの遭遇なのだが、そういった状況に追い込まれたときに負けないための十作を不肖私めが選んでみた。もしかしたら「別にSFファン相手に勝ち負けとかどうでもいいし……」と思う人もいるかもしれないが、だったら○○な十作とか読んでんじゃねえよバーカ! バーカ!!


ハイペリオンダン・シモンズ

ハイペリオン〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

ハイペリオン〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

「80年代までのSFは『ハイペリオン』で終わり、90年代のSFは『ハイペリオン』から始まる」という言葉があるかどうかはわからないが、まあ俺が今適当に考えたので、多分無いと思う。
 それはそれとして、『ハイペリオン』である。
 ハイペリオンという星が何か色々ヤバいらしいのである。何がヤバイかというのはもう覚えていないので、自分で手に取って確認して欲しい。まあとにかく宇宙の存亡の危機とかそんな感じなので、それをどうにかするため集まったのが、四百歳の詩人、銀河系を駆け巡る戦士、カトリックの司祭、ハードボイルドな女探偵、娘に異常現象が起こった学者、数々の惑星を治める領事。そんな個性豊かな面子がハイペリオン目指して旅立つのだが、到着するまで暇だから、それぞれのハイペリオンに関わる体験談を語っていくというのが本筋の内容。
 語り手となる人物を複数になることで、スペースオペラから、ほろりと泣ける時間SF、サイバーパンク的な探偵物語と様々なジャンルを自然と盛り込むことに大成功している。『ハイペリオン』自体はハイペリオンに到着して「俺たちの戦いはこれからだ!」みたいな感じで終わるのだけど、ちゃんと続編となる『ハイペリオンの没落』が存在するので安心だ。こちらでは『ハイペリオン』で語られたバラバラに思えた複数の話が、惑星ハイペリオンの上で全て伏線となり鮮やかな完成を迎える。ハラショー。
 たとえ、いくらSFを読んでいようがこれを読んでいなければ、「ふうん、『ハイペリオン』はまだ読んでないんだ。 じゃあ読んだ方が良いよ」とか言われて一気に形成逆転されるので、要注意だ! SFファンと対峙する上で、『ハイペリオン』は『HUNTER×HUNTER』で言うならば、念能力。『ジョジョ』で例えるならばスタンドである。読んでいれば威張れるということはないけど、読んでいなければ勝負の土俵に立つことすらできないのである。
 続編に『エンディミオン』と『エンディミオンの覚醒』もあって、こちらも十二分に傑作だけど、けっこう長いので好き好きで。ただ主人公がヒロインが処女じゃなくなったことに物凄くショックを受けているシーンが個人的に印象的なので、「処女厨は日本人だけじゃなかったんだ!」みたいなことを思いたい人は読むと良い。


宇宙消失(グレッグ・イーガン

宇宙消失 (創元SF文庫)

宇宙消失 (創元SF文庫)

 プロの世界とはその世界のトップが集まるが故に、その力量は拮抗し、どんな天才でも勝ったり負けたりするはずなのだが、稀にそうした常識を打ち破る強者が現れる。将棋で言うと羽生、野球で言うとイチロー。そしてSFで言うとグレッグ・イーガンである。
 そのあまりにも圧倒的な力量に、「イーガンを読まずんば、SF者にあらず」みたいな風潮が存在したが、最近では新訳される小説がどれを読んでも「ふぇぇん、難しくて何を書いてるかわからないよぉ……」状態になってしまっているために、SFファン泣かせとなっているグレッグ・イーガンである。ちなみにこの「ふぇぇん」とか言ってるのは、中学生女子ではなく良い歳したおっさんなのでぶん殴ってしまってかまわない。
 それはそれとして初期のイーガンはそんなに難しくない。多分。その中でも日本で初めて訳された『宇宙消失』は「夜空から星が消える」という宇宙規模の事象から「密室からの人体消失」というあたかも本格ミステリっぽい事件まで、ある一つのシンプルな理論によってまとめて解決する一撃必殺の切れ味が楽しめる一作。
 SFファンは婚活女子が、「年収は最低でも八百万は欲しいわよねえ」みたいなノリで「最低でもイーガンぐらいは読んでいて欲しいよなあ」とか言い出すので、「めんどくせえな、こいつら!」と思うのをぐっとこらえて、読んだりすると良い。面白いし。


愛はさだめ、さだめは死(ジェイムズ・ティプトリー・Jr.)

 実際に読んだことは無くとも『たった一つの冴えたやり方』というタイトルは、耳にした方も多いだろう。ジェイムズ・ティプトリー・Jr.はその作者。ジェイムズという名前だが、これはペンネームであり実際は女性である。50歳を超えてからのデビューという遅咲きでありながら、その短編は数々の賞を受賞。上に挙げた作品も短編集である。死後には彼女の名前を冠した賞も作られた。ちなみにデビュー当時は覆面作家だったので、本当に男性だと思われており、それを伏線にしたミステリ小説も存在するとかしないとか。
 ジェンダーを題材にした作品が多く、正直あまり好きな作家ではないが、それでも彼女の作品には圧倒的な凄みと残酷さがある。
 中でも本書に収録されている「接続された女」は酷い。主人公であるP・バークはドブス。未来人の流暢な語り口で、彼女のドブスっぷりが克明に書かれ、作中で紹介される彼女のエピソードもそれに輪をかけて酷い。口で酷い酷い言っても伝わりづらいので、ちょっと本文から酷い部分を紹介しよう。

なあ、いいかい。P・バークはオタクが娘って概念から連想するものとは、徹底的にかけはなれてるんだよ。そりゃ、彼女も女性さ。しかし、彼女にとってのセックスは、PAINという綴りのフォー・レター・ワードなんだ。まるきりの処女ってわけでもない。くわしいことはオタクも聞きたくないだろう。とにかく、P・バークがまだ十二ぐらいのときで、相手のやつらはフリーク好み、しかも麻薬と酒でべろべろだった。酔いからさめたとき、やつらはさっさと逃げていった。体に小さい穴、心に大きい穴のあいた彼女をそこへおっぽりだしてだ。彼女は痛い体をひきずって、最初で最後の避妊注射薬を買いにいったが、そのとき薬局の主人が信じられないと言いたげに大笑いした声は、いまも耳にこびりついている

 本当ひっでーな、このアマ。だが、ティプトリーはこの作品に限らず、こうした悲惨さを苛烈な文章で余すことなく書き綴る。この後P・バークは色々あった末に、自殺未遂したところを怪しげな人たちに救われて改造された結果、美少女植物人間の脳に無線接続されて第二の人生を送ることになるのだが……。
 最近は「美少女になりたい」と言っているオタを指して、「オタクはジェンダーを超えた」とかのたまっていた人がいるけど、違うんですよ。彼らがなりたいのは「女」じゃなくて「美少女」なわけですよ。そこを誤魔化すと色々酷いことになるよ。ということをこの作品は教えてくれます。まあ「接続された女」にしか触れてないけど、他の作品も傑作揃いだし、短編集だから比較的楽に読めるので読んどけ読んどけ。あと小説だけでなく、彼女の人生それ自体も凄く興味深いのでちょっとwikipedia読んだりしてくると良い。


虎よ! 虎よ!(アルフレッド・ベスター

 おさえとくとつよい(小並感)。
 アルフレッド・ベスターによるオールタイムベスト常連作品。アメリカの作家兼編集者のデーモン・ナイトという人によれば、

ベスターは、この小説の中に、普通の小説六冊分ものすばらしいアイデアを持ち込んだ。それでも満足せずに、彼はさらにもう六冊分の悪趣味と、矛盾と、誤謬を持ち込んだ。

「おいおい、デーモン。そいつぁ盛りすぎだろ」と言いたくなるが、こいつが盛りすぎではないのである。たとえば本作の主人公、ガリヴァー・フォイル。宇宙で遭難した際に救助信号を無視されたことがきっかけで復讐の鬼と化した彼は、改造手術を受けて奥歯を噛むと体に仕込んだ加速装置が起動する。これは近頃映画化された石ノ森章太郎の『サイボーグ009』の主人公・島村ジョーの能力の元ネタである。そして、彼は怒ると顔に入れられた刺青が浮かび上がる。これも同じく石ノ森章太郎の『仮面ライダー』の漫画版の設定に使われている。
 つまり主人公の設定一つとっても、日本を代表する作品に多大な影響を与えているのである。マジパネエ。

 他にも少し前に「ラノベの文章酷すぎwww」と称して、このような画像が上げられていたが

 これは実は『虎よ! 虎よ!』の1ページ。いきなりこれだけ見せられると何でこんなことになってんだよと言いたくなるが、ちゃんと読めば何でこんなことになってるのかはよくわかるので、ベスター強い。
 基本的なストーリーラインが「復讐」とわかりやすく、盛りすぎなぐらい色々盛られているので退屈せずに最後まで一気に読める一冊。
 ちなみにSFファンと対峙して「本作を読んだ」と言ったときに、『分解された男』をお勧めしてくる人は良いSFファン、『ゴーレム100』をお勧めしてくる人は普通のSFファン、『コンピュータ・コネクション』を勧めてくる奴はクソ野郎と覚えておくと、何かと役に立つだろう(ただし勧めた本を貸してくれるというのであれば、その限りではない)。


火星夜想曲(イアン マクドナルド)

火星夜想曲 (ハヤカワ文庫SF)

火星夜想曲 (ハヤカワ文庫SF)

 今時代は、火星である。おかしな進化を遂げたゴキブリ相手に、おかしな改造手術を受けた昆虫人間が戦う『テラフォーマーズ』が最高に面白い。アドルフさん、マジかっこいいので単行本派の人は5巻を楽しみにしよう。
 そんなゴキブリと人間の死闘があったかどうかは定かではないが、テラフォーミングが進んだ火星を舞台に、ある一族の栄枯盛衰を描いたのがこちら『火星夜想曲』。
 色々あって、火星の荒涼街道という人っ子一人いないオアシスに住むことになったアリマンタンド博士。彼が住むところには、殺し屋に追われる犯罪帝国の総帥や、母親とマザコンの息子、女飛行士、三つ子の兄弟など風変わりな人物が集まり、やがて一つの街が形成されていく。最初はちょっとした集落の話だったのに、二代目の代になると、ビリヤード火星チャンピオンや新興宗教の教祖などが誕生し、戦争が勃発して、サイボーグVS武装機関車が描かれたりと、話が進むに連れてどんどんスケールアップしていくのが作品の魅力。
 文学史に残る名作の一つに『百年の孤独』というものがあるが、そのSF版とも言える作品なので『百年の孤独』と組み合わせて語ったりすると、「こいつはSFだけではなく文学も使用うのか……!」と思われたり思われなかったり。


『ワイルド・カード』シリーズ(ジョージ・R・R・マーティン他)

大いなる序章〈上〉 (創元SF文庫―ワイルド・カード)

大いなる序章〈上〉 (創元SF文庫―ワイルド・カード)

 1940年代のアメリカに現れた異星人によって、ウィルス爆弾が炸裂。その結果、感染者の大半は死亡、生き残った人間の一部はジョーカーと呼ばれるフリークスに、そして特別な力を持った人間はエースと呼ばれる超人に生まれ変わった。
 というわけで、異能者たちによる超人歴史改変SF。本作はモザイクノベルと言われ、複数の作家が同じ世界観を舞台に物語を綴っているのが大きな特徴。作家達が一押しのオモシロ能力の持ち主を主人公にして、それぞれ話を展開させていく。お勧めのキャラは、射精の寸前で我慢することで魔力を発揮するという黒人と日本人のハーフのポン引き・フォーチュネイト。絶対尿道に負担がかかっていると思う。それと、能力自体は最強クラスだが人前ではビビって力を発揮できないので、装甲車の中でひきこもって戦う無敵の勇者タートル。
 また、本作は実際のアメリカを舞台にしており、実際の歴史を再現していることもあって、ヒーローたちが赤狩りにあったり、能力者がベトナム戦争に反対してヒッピー文化に傾倒したりします。イイネ!
 上に挙げた作品ほどメジャーというわけではないけど、だからこそ読んでいるとちょっとした自慢ができるかもしれないし、何か長編映画化も予定されているらしいので、ヒーローものや異能力ものが好きな人は読んでおくと得した気分になれる。


BEATLESS長谷敏司

BEATLESS

BEATLESS

「毛唐の小説ばっか紹介して、貴様それでも日本人か!」みたいなことを言う人はSF界隈ではあんまいないけど、それはともかく日本人だから日本人の小説も読んでおきたいよね。けど、この場合誰を読むべきか。星・小松・筒井の大御所三人はやや古びているし、円城塔は「ふぇぇん、難しくて何を書いてるかわからないよぉ……」枠に入っているし、仮に相手が読んでおらず、こちらが有利なポジションを取ったかに見えても「それってどんな話?」の一言でこちら側が即座に詰んでしまうので避けたい。宮内悠介は直木賞候補になっちゃうし、伊藤計劃も「大学読書人大賞」になってしまったので、にわか扱いされそうなので嫌だ。神林長平は新作も書いてるし雪風もハリウッドで映画化だし、傑作も多数だがそれだけに根強いファンが多いので、下手に手を出すと返り討ちにあってしまう。似た理由で山田正紀も却下。そんないろいろと面倒くさい心配をしている貴方のための長谷敏司である。
 元々はライトノベルを活動の場にしていたために、SFファンでもノーマークだったという人も多く、本格的にSFに活動の場を移してからはまだ冊数が少ないので充分に追いつける。
 今回紹介した『BEATLESS』は少年と美少女アンドロイドのボーイ・ミーツ・ガールというベッタベタなネタをスタート地点にしながら、そっからヒトとモノの違いを丹念に描き出し、こころとは何ぞやというところまで話を持っていくド直球のSF。ニュータイプ連載時に載っていたイラストが載ってないのが残念だが、それらは公式HPで確認しよう。


ルサンチマン花沢健吾

ルサンチマン 上 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

ルサンチマン 上 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

 漫画の名前が挙がった時点で、「ははあ、さてはネタ切れだな、こいつ」と思われるかもしれないが、ちょっと待って欲しい。『ルサンチマン』はアンチ・サイバーパンクとして大変に優れた作品なのだ。
 かつてSF界ではサイバーパンクと呼ばれるムーブメントが起こった。だが、それももはや三十年近く昔の話である。もうそこら辺のおっさんやおばちゃんがごく普通にスマートフォンを操る時代において、サイバーパンクも何もあったものではない。そうした現代の中でも一番メッキが剥がれた存在がハッカーであろう。
 SFに出てくるハッカーは大変かっこよく描かれていた。『ニューロマンサー』のケイス。『スノウ・クラッシュ』のヒロ。『攻殻機動隊』の笑い男。そういやマトリックスのネオもハッカーやってたな。フィクションの中の彼らは様々な形でコンピュータに侵入し、不可能と思われる計画と次々と実行してきた。
 だが、現実はどうだ。最近ではネット上で犯罪予告を行ったハッカーが、猫カフェに入ってるところを写真にばっちり取られ、「ゆうちゃん」呼ばわりされて嘲笑の的である。ハッカーのかっこいいイメージは払拭され単なるオタク扱いである。あと、あの事件に関しては容疑者よりも警察やマスコミのやっていることの方がよっぽどSFっぽい。
 閑話休題。そうしたインターネットやコンピュータが日常化した中で、「ネットとかに詳しい人ってやっぱり……」と皆が薄々気づき始めた時、そうした存在をモテない男子として思いっきり戯画化したのが、『ルサンチマン』なのである。
 ネット上では伝説級の存在として一目置かれているラインハルトさんが、現実ではただの無職童貞のキモオタとして描かれる現実! 「やっぱ一日中ネットに接続してる奴なんてろくな奴がおらんかったんや! サイバーパンクなんて幻想やったんや!」と叫びつつ、その流れに沿って『ソードアート・オンライン』にまで話を発展させると良いかもしれないし、悪いかもしれない。
 あと実際ネタ切れである。


バーナード嬢曰く。施川ユウキ

 漫画の名前が挙がった時点で、「ははあ、さては飽きてきたな、こいつ」と思われるかもしれないが、ちょっと待って欲しい。『バーナード嬢曰く。』はアンチ・SFファンとして大変に優れた作品なのだ。
 本を読むことで周りから頭が良い人間に思われたいと考える少女、町田さわ子がヒロイン。この設定の時点でなかなか感情移入できてしまうのだが、本作で注目したいのが、ある種のSFファンを戯画化した神林しおりの存在である。
 この娘さん、熱心なSFファンであり、啓蒙したがる性格も加わって、いちいち薀蓄が長い。そして性格が凄く面倒くさい。
「オマエがスタージョンの法則とか口にすんな」とか「『SF語るなら最低千冊』! ムリでもせめて普通に本屋で買える青背全部読んでから言え!」とかSF初心者相手にいちいちウザいのだが、この時の感情移入の対象が、町田嬢になるか、神林嬢になるかで貴方の人生は大きく異なるだろう。
 それはともかく、面倒なSFファンに出会ったら「神林さんみたいな人って実在するんだなあ」と思ったり、「女子高生だと許せるけど、おっさんに言われると色々キツいな」と思ったりすると、心の奥底に芽生えたドス黒い感情が自然と浄化されるので、SFファン対策としてはこの上ない実用書である。
 あと神林さんは、イーガンがわからないという町田さんに対して、「みんな実は結構わからないまま読んでいる…」とか、ディックの短編集を薦めておきながら「初訳? 面白い?」と訊ねられると、「ディックが死んで30年だぞ! 今更初訳される話がおもしろいワケないだろ!」とか、額に入れて飾りたくなるような発言を連発するので大変好感が持てる。
 あと3つめぐらいから飽きていた。


涼宮ハルヒの憂鬱谷川流

涼宮ハルヒの憂鬱 (角川スニーカー文庫)

涼宮ハルヒの憂鬱 (角川スニーカー文庫)

 9本まではあっさり決まったんだけど10本目は空白でもいいかな、などと思いつつ、便宜的にハルヒを選んだ。
 ハイペリオンから始まってハルヒで終わるのもそれなりに収まりはいいだろうし、YouTube以降のアニメ時代の先駆けとなった作品でもあるし、紹介する価値はあるのだろうけど、もっと他にいい作品がありそうな気もする。
 というわけで、俺のこういう意図にそって、もっといい10本目はこんなのどうよ、というのがあったら教えてください…………などと突然、全然関係ないテンプレのネタを織り交ぜても通じない人には通じない。もう五年前のネタだしな、これ!
 というわけで、とっくの昔に飽きているので、「ほらやっぱこういう十作ってのは他人に言われたのじゃなくて自分で見つけるもんだよな!」とか適当にそれっぽいことを言ってお茶を濁しまくって終わりたいのだけど、まかり間違って「SFを読み始めるために是非参考にしたい!」って真面目な若者がこの文章を読んでいたら悲しい気持ちになってしまうかもしれないので、とりあえずこれなんか読んでおくと良いのじゃないかしら。
SFベスト201 (ハンドブック・シリーズ)

SFベスト201 (ハンドブック・シリーズ)

 海外SFしか取り扱っていないけど、二百作も紹介しているので有名どころは大体抑えられるし、この中から紹介されている中で面白そうだと思った作品を順番に読んでいけばいいんじゃないかしらん。中にはサンリオ文庫とか入手困難なやつも混じっているけどな!
 日本人作家のSFが読みたかったら、2013年版の「SFが読みたい!」で日本人作家特集をやっているのでそちらを読むと良い。
SFが読みたい! 2013年版

SFが読みたい! 2013年版

 それと、「おじさん、バチカルピとかミエヴィルとかスコルジーとかライアニエミとか最近の作家はどうして紹介しなかったの?」と訊かれると、「おっちゃんな、こんなエントリー上げたけど、実は最近全然SF読んでないねん…………SFとか読んでて疲れるし頭に全然入ってこないんや…………それにおっちゃん最近は横山秀夫と北方三国志が面白くてたまらないんや…………」という大変やり切れない答えが返ってくるので、そっとしておいてあげよう。
 まあ、めんどくさいSFおじさんなんて言っても、実態はこんなもんだったりするので、おっさんが進める古典なんか無視して、常に最新のSFを読み続けるのが若者にとって最善手かもしれない。出版社にとってもそっちの方が有り難いだろう。
 大体さー「紙の本を読みなよ」とか言っても、ブックオフで買われちまったら、作者にも出版社にも一銭も入ってこねえんだよ、クソが! おらっ! 若僧連中はバイトして新刊買ってどんどん読め! 以上!