『ガッチャマン クラウズ』を薦めたくなる三つの理由。

Crowds ガッチャ盤(期間限定)

Crowds ガッチャ盤(期間限定)

 『ガッチャマン クラウズ』が面白い。
 正直なところ始まる前はめっちゃ馬鹿にしてた。
 話を初めて聞いたときは「ちょwww今更ガッチャマンってwww四十年前のアニメじゃないっすかwww四十年前って言ったらドカベンがまだ柔道やってた頃じゃんwwwwww…………あれ? ということはドカベンって四十年前に連載が始まって、今でもチャンピオンで毎週連載やってんの…………? 水島新司マジパネえな…………」と恐れおののいてしまった。
 また監督が中村健治と聞いても、ノイタミナを見ていなかったのでどんな監督か知らなかったし、「実写映画のガッチャマンにあわせて新作放映とか、タツノコはんも上手いこと商売なさるもんどすなあ」とか京言葉交じりでたかをくくっている始末。当然視聴しないまま終わるだろうと思っていたのだが、TwitterのTLを眺めていたら「はじめちゃん、おっぱい!」「はじめちゃん、めちゃシコ!」なる呟きが一部から上がっており、「おっぱいでめちゃシコか…………ったくしょうがねえなあ、お前ら!」という具合になった。
そして、その流れでの視聴後第一声が「…………ええやないの」ですよ。
 ジョジョでも話題になった神風動画によるOPはスタイリッシュでクッソかっこいいし、CGをバリバリに使ったアクションシーンは、スーツのギミックも豊富で凄く楽しい。そして何よりヒロインのはじめちゃんが可愛い。一人称が僕、「〜〜っす」という言葉づかい、それに加えてハイテンションで電波な性格。
 手帳に頬擦りするし会話するし、変な鼻歌ばかり歌うし、3メートル近い瞬間移動するジジイを見ても平然と会話するし、いきなりガッチャマンをやれと言われてもあっさり引き受ける適応力。さらに敵生物を見た最初の感想が「可愛い」だったりと、色々ピーキー
 あと、ガッチャマンのリーダーである宇宙人、パイマンも良いキャラをしている。
 外見はパンダ。性格は頑固なおっさん。声は平野綾という一見ミスマッチな設定が上手く調和しており、見ていて凄く楽しい。


リーダー、パイマンの雄姿。その実態は昼からビールの缶を何本も開けるダメパンダ。

 他にも物語の中心に、オカマ、女装癖、性別不明の宇宙人など、トランスジェンダーなキャラが三人も配置されていたりと、色々おかしなことをやっている。こうしたキャラクターたちの存在だけでも充分魅力的なのだが、他にも楽しめる様々な要素が盛りだくさんなので、順番に挙げていこう。


その1 まったく新しい作品であること。

 

 冒頭にも書いたように初代ガッチャマンといえば元々は四十年前のアニメである。その続々編であるガッチャマンFですらテレビ放送されたのは三十年以上前。そこまで時代が離れてしまえば流石の矢口真里も「子供の頃から大ファンでした!」みたいなことは言えないだろう。それに彼女今それどころじゃないし……。
 だから今の若者のガッチャマン知識といえば、「ジョーって人がめっちゃミサイルをぶちこみたがるんでしょ!」や「『第三世界の長井』の博士にそっくりなキャラが出てくるんだよね!」や「昔、SMAPがCMでやってたよね!」ぐらいのもんであろう。多分、「科学忍者隊」というフレーズを耳にしても、サラリマンをネギトロにするザイバツのサイバーなニンジャの集団を想像してしまうに違いない。
 そんな状態でガッチャマンの新作をやると言われても、「…………自分初代を見ていないので新作とか結構っす」みたいな気持ちになってしまうよね。ってか俺はなった。
「だいたいさー、いくら実写映画でやるからって今更ガッチャマンとか持ち出されてもさあ…………そういえば今年の夏にはフルCGのキャプテン・ハーロックも公開されるらしいね、最近あれだね、コンテンツ不足に乗じて、偉くなったオッサンが自分が子供の頃に好きだったものを、金かけてリメイクしたがる傾向ってあるよね…………結局これもパッと見、新しめに見せかけてどうせ旧作の内容をなぞったものが出てくるんだろうな」って思ったらめっちゃ今風っすよ!
 舞台は立川だし、時代は2015年だし、SNSめっちゃ流行ってますし、変身する人達、誰一人マントを羽織っていないっすよ! ってかヒーローどころかパワーローダーみたいになってる奴まで混じってるっすよ! ガッチャマンの名前を借りてやりたい放題っすよ、先輩!


 変身後マシンに乗り込んだとかではなく、変身して直接これになる。つよそう

 大体一話のサブタイトルからして、「Avant-garde」ですからね。初めて見たときは「…………エイベントガーデ(震え声)」とか思ってたけど、アバンギャルドって読むんですってね、これ…………そう、アバンギャルド。つまりこのアニメでは既存作品の焼き直しなんかを作る気はさらさら無く、現代、この瞬間の最前線のアニメを作ってやろうという気に満ち満ちているのだ。
 そして、その現代の象徴となるのが本作の中心に位置するSNS「GALAX」だ。


その2 ヒーローとの対立軸にSNSを置いていること。

 

 現代のインターネットを語る上で、欠かせることのできないのがソーシャル・ネットワーキング・サービスSNSである。もう今この現代、老若男女、猫も杓子もSNSですよ。
 日常的にPCを扱う多くの人間がtwittermixiFacebookなどのアカウントを持っている。ちなみに、このネットの最果て、限界集落はてな村にも「はてなOne」と言われるSNSが存在し…………えっ、サービスもう終わったの!? マジで!? だって去年の2月にできたばっかり…………ああ、そうなの、ふーん…………まあ僕は誰からも誘われなかったから別にどうでもいいけどね…………あとwikipediaで、ソーシャル・ネットワーキング・サービスの一覧とか見てたら、「紳士と淑女のためのクンニサークル」というのが見つかったので、SNSってすげえなって思った。
 閑話休題
 とにかく最近はSNSが流行りで、ちょくちょく色んな形で漫画やアニメやドラマにもSNSが登場したりするのだが、本作ではそのSNSが話の中心に据えられているのだ。
 その名も「GALAX」。
 作中での描かれ方はアメーバピグやLINEとtwitterなど既存のSNSを上手く組み合わせた感じ。


 こんな感じ。はてなOneにもこれぐらいのキャッチーさがあれば……。

 
 そして、これらに加えてGALAX内にはユーザーの質問に答える超高性能AIが常駐されている。
 何か困ったことがあったときに、相談すると上手い解決策を提案してくれるのだ、それも丹下桜ボイスで!
 そんなサービスがあったら即登録するじゃないですか。だって丹下桜がこちらの質問に何でも答えてくれるんですよ。
 「『紳士と淑女のためのクンニサークル』ってどういったSNSなの?」って訊ねたら、「クンニが好きな人同士で情報交換と親交を深めるサークル活動を行っています」って言ってくれるんですよ! 丹下桜が!! 最高だな、GALAX!
 他にも、事故が起こったときに呼びかけたりすると、近辺にいるGALAXユーザーに連絡して、救急車よりも早く救助体勢を整えてくれたりするなど、凄く便利。
 そんなGALAXのそのキャッチフレーズは

世界をアップデートさせるのはヒーローじゃない。僕らだ。

 その言葉を裏付けるかのように第三話では、未殺菌の牛乳が流通するという事態に対し、GALAXユーザーたちの連携によって被害を減少してみせた。ガッチャマンの出番一切無し!
 これを見て「そんな都合よくいくわけねえだろ」と思う人もいるかも知れないが、その数日後、高校生達がLINEによって避難情報を共有し、被害を減じるというニュースが報じられ、この作品で描かれているのが単なる絵空事ではないことを証明してみせた。
 そして面白いのが、本作ではこうしたSNSを単純に肯定的に描いているわけではないのである。今回の描写に関しても、GALAXのユーザーたちは、自販機のコンセントを抜くなどして被害の軽減に努めたが、そこではGALAXから与えられた情報を疑う様子などいっさいない。そうしたGALAXを過信する彼らの様子がどこか薄気味悪いのだ。
 こうした演出はこちらの深読みというばかりじゃなく、意図的にやっていると思われる。
 SNSは人々に旧来のメディアでは考えられないほどの速報性をもたらしたが、それとひきかえにデマや風説の流布などもたやすく可能にもした。最近でも、東京都内でパーナさんなる人々が大変なことになっているという噂が流れ、一部に混乱と不安と爆笑をもたらした。


 混乱と不安と爆笑の一例。


 現状、作中のGALAXでは、丹下桜AIによる高度な情報統制が行われており、健全な状態が保たれているように見える。だが、そこに何らかの悪意が介在すればどうなるか?
 今後は、おそらくそういった面もクローズアップされていくと思われるのだが…………さて、それではガッチャマンはそこにどう絡むのか?



その3 先の予想がまったくつかないこと。

 ガッチャマンはヒーローものである。だからやはり変身して悪い奴と戦うんだろうというのが予想される展開であるが、本作品の場合、そうした予想が通用しない。
 だって戦う相手がいないんだもの…………。
 第一話の時点では、MESSと呼ばれる謎の生命体と戦っていたわけだが、第二話で早くもコミュニケーションらしきものが成立し、和解を果たしてしまった。
 一応人間に擬態して悪さを働く、ベルク・カッツェという謎の宇宙オカマも存在するが、やってることといえば、カップルを階段から突き落として「メシウマーーーーー!」と叫んだりするぐらいだ。


 男と熱いキスを交わすカッツェさん(右)。
 この後、左のおっさんに擬態し、カップルを階段から蹴落としてメシウマ状態

 そういうわけで、第三話にして変身シーンなしというヒーローものとしては異例の展開を見せており、活躍するのはGALAXばかり。
 そんなGALAXのユーザーたちは、作中で「ギャラクター」と呼ばれている。このギャラクター、聞いてもピンと来ない人も多いだろうが、実はこれ、初代ガッチャマンの敵組織の名前なのである。しかもGALAXを管理している丹下桜AIの名前が、初代のギャラクターのボスであった「総裁X」。
 なるほど、じゃあ、やはりGALAXが敵になるかとも思うのだが、そう単純に話は進まない。ガッチャマンのメンバーの大半がGALAXのユーザーである。すなわちガッチャマン=ギャラクター。シリーズ内の固有名詞を上手く流用しながら、ますます先の読めない展開を作ることに成功している。
 そもそも現代社会において、こいつを倒せば全てが解決する巨悪など存在しない。だったらコツコツ人助けや犯罪の取締りでもすれば良いのかもしれないが、作中ではそのような役割をギャラクターが勤めてしまっている。まさに「世界をアップデートさせるのはヒーローじゃない」のだ。そのような世界でヒーローはいったいどのような役割を果たすのか?
 他にも色々と登場人物や設定にも謎が多く、先の展開が読めないわけだが、この読めないというのは決していい意味ばかりではない。
 様々なテーマを盛り込んだこの内容がちゃんと12話内に収められるのかとか、変身できる五人のメンバーの内、現時点で二人しか変身していないが他のメンバーの活躍シーンが足りるのかとか、第三話にして、絵コンテ四人、作画監督六人という総動員体制に入っているが、スケジュールは大丈夫なのか? とか、思わず心配になってしまう部分も数多い。
 そういった部分も含めていろいろな意味で予想がつかず、テンションの高い主人公に引っ張られ物語も進んでいき、まるでジェットコースター気分。というわけで、リアルタイムで今後の展開を是非とも見守っていきたいのが、残念な部分が一つだけ。
 本作品は日本テレビでしか放映されていないのだ。Webでの配信も、放送日翌週の木金を除けば基本有料。もうすぐ公開される映画版の宣伝にもなるのだし、もうちょっと手軽に観れる環境を整えてくれるとありがたいのだが。
 何はともあれガッチャマンという懐かしのヒーローを使っていながら、物凄く新しいことに挑戦しているアニメなので、観れる環境にある人はチェックしてみると良いっす!

 他の方による『ガッチャマン クラウズ』の紹介エントリ
アップデートされるヒーローと世界「ガッチャマンクラウズ」 - 藤四郎のひつまぶし
http://www.swatz.net/entry/2013/07/30/203705