自由主義少女リベ子ちゃん・リブート

前回:自由主義少女リベ子☆マギカ[新編] 叛逆の物語 - 脳髄にアイスピック



「ラーメン屋で注意された客が注意した客を踏みつけて死亡……世はまさに世紀末……」
「リベ子ちゃん、世紀末はもう終わったよ! あと100日もすれば東京に使徒が襲来する2015年だよ!」
「空飛ぶスケボーはいつになったら開発されるのかしら……って、あなたは私の使い魔にして、ガンダムビルドファイターズの主要キャラと名前がかぶってるせいで、名前の使い勝手がますます悪くなったラルじゃない」
「トライはどうなるんだろう……広瀬正志さんの容体が心配だよ……って今はその話をしにきたんじゃないよ! 大変なんだよリベ子ちゃん!」
「毎回入り方一緒だけど、あなたが持ってくる話って基本ネット上の小競り合いが大半で、本当に大変だった試しってめったにないわよね」
「本当に大変な話だったら口づてに伝わるんじゃなくて、ニュースや新聞で直接知る場合の方が多いからね……。それよりこれを見てよ、これ!」
「なになに、エマ・ワトソンが国連のスピーチで男女平等を訴えたら脅迫、大炎上、と……久々にちょっとリベラルな流れになりそうな展開ね。エマ・ワトソンといえば、ハーマイオニー。つまり私と同じ魔法少女ってことじゃない」
「リベ子ちゃんって魔法少女だったんだ……」
「ええ、そして現代の魔法少女フェミニズムは切っても切れない関係にあるのよ」
「リベ子ちゃんってフェミニズムに詳しかったっけ?」
「ええ、ブックオフで『東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ』って本を立ち読みしたわ
「買ってすらいない……」
「しかし、久しぶりにエマ・ワトソン見たけど、この子も随分と成長したわねぇ」
本当たまったもんじゃねえよ!
「!?」
あんなに愛くるしかったハーマイオニーたんが、こんなありふれた女になっちまうなんてよお。時の流れってやつはちょいと残酷すぎやしませんかねえ……最近じゃ『キック・アス』でヒットガールを演じたクロエ・モレッツちゃんが良かったけど、続編の『キック・アスジャスティス・フォーエバー』だとなんていうのかな、アクションは相変わらず素晴らしかったけど、女優としてのオーラ……少女が幼少期にしか見せない輝きがめっきり減ったよね……なんでみんな僕を置いて大人になっていってしまうんだろう……
「落ち着いて、ラル! 彼女たちが年齢を重ねているように貴方も十分歳を取っているのよ! もう貴方も耳の裏の匂いとか起きたとき枕についてる抜け毛の本数を気にしなきゃいけない年齢なのよ!」
「ふふふ、けど僕には海外から輸入した『I am Sam』のBlu-rayがある。これさえあれば、僕はいつでも最高に可愛かった頃のダコタ・ファニングに会えるんだ……
「凄い……石川シスケの漫画に出てくる男キャラ並に目が死んでる……」
「けどね、リベ子ちゃん、僕はエマの言うことがわからなくもないんだ」
エマ・ワトソン、『14歳の時、私は一部の報道で性的対象のような扱いを受けました。』ってお前みたいな奴に対してめっちゃゲンナリしてるぞ」
「僕はそんな卑劣漢じゃないよ! 僕だったら14歳になる前のエマだってバリバリ性的対象にできるよ!」
「あ、うん、そうね、すごいわね……で、話を元に戻すけど、貴方がエマのスピーチの何に共感したの?」
ここに全文載ってるんだけど、エマはこう言ってるんだ。『私は、男性にこの足かせを取り外してほしいのです。それによって彼らの娘、姉や妹、そして母親が偏見から解放されるだけでなく、彼らの息子たちも弱さを持つ人間であっても許されるように。彼らが手放した自分らしさを取り戻し、そうすることでより本物で完全な姿の自分になれるように。』って」
「最近は草食系男子なんて言われている男性が増えてきたことや、男らしさからの解放を主張する男性学の研究も進んでいることを考えると、時流に乗った意見かもしれないわね」
「そう、エマのスピーチと似たことを考えている男性だって多いはずなんだ! 僕も世間が押し付ける男らしさなんか脱ぎ捨ててありのままの自分でいたい! 具体的には小学五年生ぐらいの美少女に『もうお兄ちゃんはしょうがないですねえ』ってあやされながら優しく手コキされて射精したいんだ!
「ラルって名前なのに、性癖はシャアっぽいわ……」
「男はみんな誰もが心の中にネオ・ジオン軍総帥を飼ってるんだよ……なのになんでこういうシチュエーションを描いたエロ漫画は少ないんだろう……僕は不思議で不思議でしょうがないよ」
絵面が汚すぎるからじゃないかしら……けど、ラル、残念ながら貴方の願いは叶わないわ」
「なんでだよ! 小五がダメなら小四でも小三でもいいよ!」
「そこはせめて年齢を上げて欲しかった……たとえそれが焼け石に水だとしても……そっちじゃなくて、男性が男性性から気軽に脱却できる社会は簡単には訪れないってことよ」
「なんでだよ…………お前ら授乳手コキされたくないのかよ…………最高だろ、授乳手コキ…………」
「そんな特殊な性的嗜好は一般化されないし、最高かどうかは個人の感想だし、そういうレベルの話じゃなくてここには社会と男性の結びつきの問題があるの」
「それはどういうことだい?」
「たとえば、男性の場合、女性に比べて“社会に出て働く”という役割が当然のものとされているわ。これは専業主婦と専業主夫の数を比較すれば一目瞭然よね」
「女性だと家事手伝いなのに同じことをやってる男性だとニート扱いされたりするよね」
「そうした社会では、残業をいとわず、有給も使わず、私生活を犠牲にして会社のために尽くせば尽くすほど社内での評価が高まる。福利厚生がしっかりしている会社ではその限りではないとしても、このような旧態依然とした会社はまだまだ数多いんじゃないかしら。こうして家庭のことには目もくれず働いたマッチョな人が出世していく。このようなマッチョな人が組織階層の上部に陣取り続ける限り、なかなか社会レベルでの変革は難しいんじゃないかしら」
「けど、トップダウンでの変革が難しいとしても、その社会を形成する一人ひとりが個人レベルで変わっていけばいいじゃないか! エマが主張しているのもそういったことだよ!」
「この場合、そっちはそっちで難しいのよね……」
「個人レベルで変わっていくことの何が問題だっていうんだよ」
ぶっちゃけ、男性性を放棄するとモテないのよね……
「直球だ!」
「そんな男性性バリバリな奴ばかりがモテるかっていうとそう単純な話でもないと思うけどさー、ほら、デートのとき気遣いがしっかりできてたりLINEの返信がマメだったり料理上手かったりする、ある意味で女性的な男の方がモテたりするし」
「僕、料理めっちゃ作れるよ! 平日FC2ライブでろくな配信がやってないときは特にやることないからって理由でブイヤベースとかめっちゃ時間かけて煮込むよ! あと女の子とLINEのアカウントを交換したときに備えて、スタンプにめっちゃ課金してる!」
「ごめん、その話まったく興味ないわ。でも少女マンガとかだと現代でも壁ドンとかが大人気だしねー、なんだかんだで女性的な側面を持っていたとしても、だからといって男性性は失ってほしくないって思っている女性は多かったりするんじゃないかしら。それに当のエマ・ワトソンも『もし、男性が女性に認められるために男らしく積極的になる必要がなければ、女性も男性の言いなりにならなければとは感じないでしょう』って言っちゃってて、これって裏を返せば、『男らしく積極的じゃないと男性は女性から認められない』ってことよね」
「けど、エマは『男性がそうした固定観念から自由になれば、女性の側にも自然に変化が訪れるはずです』って言ってるじゃないか!」
「いや、変わらんでしょ。人の好みなんてめっちゃ主観的なんだからさー。ほらフェミニズムの浸透によって女性が“女らしくない”生き方を選択できるようになっても、大和撫子が好みで良妻賢母を求めるって男は多いしねー。それにこれって『卵が先か、鶏が先か』っていう問題にも似ててさー、女性がそういう傾向の男性を好むから男性が『男らしく積極的になる必要』があったとも考えられるし。こう考えると、社会レベルでも個人レベルでも男性が男性性を放棄するメリットって少なすぎるのよね」
「そんな……せっかく美味しいブイヤベースが作れるようになったのに……リベ子ちゃん、どうにかして男性が男性性から合理的に解放される手段はないのかな……あと正直男性性とかどうでもいいから合法的に小学生にあやされる手段を……」
「正直すぎんだろ……ってか何千人ものフェミニストが何十年も思考を続けている問題にそんな解決策をポンと出せって言われても、無理に決まってるじゃない」
「そんな……」
「けど、そこをどうにかするのが自由主義少女であるところの私のレゾンデートル、任せてラル! 私がとっておきの解決方法を考え出してあげるわ。ポクポクポクポク…………ありの〜ままの〜♪」
「出た! 持ち歌がゼロ年代前半の曲ばかりに偏っていることに悩んでいたリベ子ちゃんが、最近カラオケで密かに練習してる日本語版Let It Goだ! フェミニズムの話題だけに曲のチョイスはばっちりだ!
「一曲歌っている間に全ての解決方法が見つかったわ、ラル」
「本当かい? リベ子ちゃん!?」」
ええ、『シグルイ』で秘剣・流れ星を会得するときに藤木源之助はこのように言ってるわ
「え、なんでいきなり虎眼流の話始めてるのこの人?」
「『もし奪わんと欲すればまずは与えるべし。もし弱めんと欲すればまずは強めるべし』……そう大切なのは敵勢力を強めること!」
「はあ……」
「そこでこの一夫多妻制度の導入よ!」
「話がめっちゃ飛んだ!」
「かのT.M.Revolutionも奈良スクリューのテーマでこのようなことを歌っていたわ『ハーレムを作りたいとかそーいや昔思ってたっけな』。そう男と生まれたからには誰もが己のハーレムを築くことを一生のうち一度は夢見る」
「はあ」
「一夫多妻。この甘い響きに世の権力者たちが惹かれないはずがない。きっとみんなこの提案に飛びつくわ。しかし、そうして獲得した勝利の美酒こそが絶命に至る毒酒! 一夫多妻制度によって一部の男性の下に多くの女性が集まる。その結果、配偶者を見つけらない男性が増え、男性の間でも少数の勝ち組と多数負け組という二極化が始まるわ。こうして世間のフラストレーションは溜まり、やがて彼らの怒りは憎悪となって女性を独占する勝ち組男性、この一方的な格差を生み出す男性性へと向かう。そうすればしめたもの。数は力よ。負け組男性を味方につけて、私たち女性は行き過ぎた男性中心社会の撲滅をモットーに世論をじわりじわりと誘導していくの」
「迂遠すぎる……」
そして、この計画の真の目的は男性達の社会的な去勢!
「アレなこと言い出した!」
こうして弱者男性の動員に成功し、女性の女性による女性のための武力革命を実現した私は日本国の女王兼大統領としてこの国を、そして男どもを支配するの……!  ちなみに私の試算では一夫多妻制度が実現するまでに25年、そこから武力革命が実現するまでに40年の時を要するわ」
「根本の発想がアレな割に、かかる時間に対しては現実的な見通しを持ち込むんだね……ってかその頃には僕もリベ子ちゃんも生きてるかどうか怪しいよ……」
「そうかもしれないわね、ラル。けど、社会や人の価値観を変えるってのは、時間を必要とするものなの。確かに私たちの世代ではこの世の中のすべてを変えていくことはできないかもしれない。けどね、私たちが少しでも物事を良くしようと考え行動し、次の世代へバトンを渡す……そうした一人ひとりの行いがより良い未来に繋がっていくんじゃないかしら……。ありの〜ままで〜♪」
「散々適当なことをのたまったあげく、なんかいかにもそれっぽいことで話をまとめようとした! ってかこいつリベラルに対して根本的なところで勘違いしてる気がする!」

つづかない

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