うかつにジャンル全体を批判すると死ぬ

 別名主語がでかい奴は全方位から殴られる問題の話をしよう。
 #有害都市 内部で描かれたアメコミに関する描写が不適切で大炎上 - Togetter
 ライトノベルが馬鹿にされがちな三つの理由 - WINDBIRD
 というわけで、最近俺の中で話題になってたこれら二つのエントリである。
 上のエントリはともかく、下のエントリはタイトルとは関係ないじゃんと、思われそうだし未来の俺が読み返したときに「なんで下のエントリもセットで紹介してんの? トラックバック送ってのアクセス流入狙い?」とか思ったりしそうなので、一応説明しておくと、最近のtwitterではtweet内に「最近のラノベ」という単語を入れておくと、どこからともなくラノベ天狗なる存在が現れ、発言をRTした後罵倒したり嫌味を言ってくるという都市伝説が確認されているからで、ようするに夜中に蛇を吹くと口笛がやってくるようなものである。蛇を吹くという言葉の意味はよくわからないが、カエルの尻にストローを突っ込んで空気を入れて膨らませるあれみたいなものだろう。
 実際、下のエントリに登場したような、ライトノベルを馬鹿にする人は常にラノベ天狗に監視されているし、さらに下のエントリから派生したエントリを書いた人物の中には実際に天狗に捕捉され、蛮勇を奮われている人もいるので興味のある皆は確認しよう。つまり下のエントリも今回のタイトルの流れに関係があるってことを過去の僕は主張したかったのさ、未来の僕。
 これら二つの話題に共通するのは、どちらもうかつにジャンル全体に言及するとおっかない人たちが押し寄せるということである。
 別にこれはアメリカンコミックやライトノベルに限らない、SFでもミステリでもゲームでも映画でも鉄道でも酒でもパンクロックでも野球でもファッションでも、何でもいいけど、うかつにジャンル全体を包括して語ろうとすると、どこからともなく詳しい人々が現れ面倒な状況に巻き込まれるという話で、ジャンルによって集まってくる人間の面倒くささは変わってくる(直接言及してくるダイレクトアタック系から、発言を切り取り遠巻きに眺めて嘲笑する見世物小屋興行主系など色々なパターンが存在する)が、下手にジャンル全体を語ろうとすると捕捉された際に倍返しされるという結論は変わらない。
 基本的に特定のジャンルというのは一人の人間が気軽に語るには広すぎる。もちろん常日頃から巷で流行っているそのジャンルのものに触れて造詣を深め、先人が遺した資料なり文献なりに当たり、さらに他の研究者などの知見に触れるなどすれば不可能ではないだろうが、それらは決して気軽なことではない。そうした努力を怠り、わずかな体験と漠然としたイメージで語ろうとすると大体あまり好ましくない展開が待ち構えている。
 にも関わらず、なぜ一事が万事と言わんばかりに、わずかな知識でジャンルを語ろうとする人間が後を絶たないかといえば、ジャンル全体を語った方が耳目を集めやすいからである。たとえばある特定の作品が詰まらなかった場合に、twitterで「『○○』はクソ!」と言ってもその発言には『○○』に興味のある人しかよってこない。しかし、ここで主語を拡大し『最近の純文学はクソ』とか『最近の邦画はクソ』と主語を大きくしてみると、あら不思議、その特定のジャンルに悪感情を持っている人からは賛同を得られやすい。やったねパパ、これで明日から僕もアルファツイッタラーだ!
 しかし、話はそう上手くはいかない。何故ならそうやって導きだされた結論はあくまでも自分のわずかな体験で得られたものでしかないのだから、ちゃんとそのジャンルに詳しい人にそうした発言を見つけられると、「てめ、たったそんだけの知識で何ナマ語ってんじゃ! ぶっ殺っぞ!?」と良くわからない方言で絡まれて、友人に向かって「やべwいきなり何か怖い人たちがリプしてきたんですけどwメンゴメンゴw」と自分余裕っすよアピールをしたは良いものの、実際にはリプライ欄を見るたびに二日ぐらいげんなりした気分になって「鍵かけようかなあ……けど、それするとフォロワー増えないし……」とかなってしまいがちなので、半可通で何かを語るのは危険だね。主語を大きくしたらさらにヤバい。という世間知を得た方が皆幸せになれる。
 まあ、けどそうした特定のジャンルのマニアが皆怖くておっかない人かというと話は別で、「先日『○○』って作品を観ました! やっぱSFって面白いですね!」みたいに批判するのではなく、ジャンル全体を称賛する類の呟きをすると、「だったら他には『××』って作品がおすすめですよ!」みたいに有益な情報を与えてくれるケースもある。そう、ただの悪人なんて、世の中にはいないんだよ。皆誰かには冷たくても、誰かには優しかったりするんだ。だから僕たちはなるべく優しい言葉を使って生きよう。罵倒や誹謗は何もいい結果を生み出さないんだ。人間悪いところばかりに注目しても良いことはない。ちゃんと綺麗な言葉を使って生きていこう。知ってますか? 水にありがとうっていうと、綺麗な結晶ができるんですよ!
 しかししかしけれどもしかし、世の中にはな、「はあ、そんなゴミみたいな作品褒めてんじゃねえよ、クソが」みたいな本気で面倒くさい人間も存在するのだ。そう、救いなんてどこにもないのだ。
 だから皆もっと罵りあい殴りあい殺しあってギャラリーである俺を楽しませたりすると良い。
 僕ぁインターネットにも、blogにも、はてなにも、生産的なものはもう何一つ期待しちゃいないんだ……。どいつもこいつもインターネットをささくれた感情の捌け口にして、瞬間的な憎しみをぶつけ合っていけばいいじゃん。いいじゃねえか、インターネットで罵倒されたって死ぬわけじゃないし。言いたいことも言えないこんな世の中を破壊してくれたのがインターネットじゃねえか。インターネットがあったからこそ、中村ノリだって首脳陣への不満をファンに伝えられたんだぜ。
 面白くないアニメを観たら「最近のアニメはゴミ」、気に入らない曲がヒットチャートを独占すれば「日本の音楽は死んだ」、つまんない映画に観客がたくさん入ってたら「山崎貴ってなんでこんなに人気あんの?」、それでいいんだよ。もちろん、そういう話は不特定多数の目から離れた場所、たとえば居酒屋で友人相手にするべきだ、という意見もあるかもしれない。
 けどよ、そんな友達がいないから、あんたもこんなところ見てんだろ。俺ぁ知ってんだぜ。