パラダイムシフト後の世界と毛髪が不自由な中年男性をセカンドレイプ問題

 いまさら感があるが、この手の議論は後出しジャンケンに限るので、適当に。
 今回のニコニコ大会議において、毛髪が不自由な人が画面に映されるや否や、その人の身体的特徴を面白おかしい形であげつらう発言が飛び交ったのは大変残酷なことで、パラダイムシフトにゃ到底ならないと思うけど、今回のようなケースが一般化されたら、それはそれで面白いとは思う。
 『電脳コイル』みたいに、ネット上に接続された特殊なメガネで個人個人の顔を認識し、メガネの持ち主が各自それらの人に関する特徴を入力して、サーバー上にアップロード。不特定多数から集められた特徴が一定数以上の割合に達すると、そのデータがメタタグとして採用され、実際に登録された人の姿をメガネ越しに見ると、その人についてるメタタグ『童貞』『水虫』『親がヤクザ』『陥没乳首』『ヅラ』『年収6桁』『毛じらみ』などという文字情報がニコニコよろしくその人の周りに自動的に浮かび上がるというシステム。
 技術的には出来るようになっても、倫理的には到底無理だなあ。ニュータイプみたいに皆隠し事ができなくなって、素晴らしい世の中になると思うのに。
 しかし、登録されるのがマイナスの情報ばっかりで、誰もその人にとってプラスの情報を登録しないという前提の仮説は我ながら酷いと思う。『馬鹿だけど金だけはある』とか『アッシー君に便利』とか『すぐにやらせてくれます』とか『アナルもオッケー!』みたいな、そういった有意義な情報も登録してあげれば良いのにね。
 ただ、こういうのが可能になったとしても、今回の件で問題になっているような、わかりやすい身体的特徴って、登録されないと思うんですよね。だって、それはもうわざわざタグで登録しなくても一目でわかるじゃないですか。
 たとえば、すっごい美人に『実はニューハーフ』とか『※注意 今貴方が異臭を感じたとしてもそれはサリンや毒ガスではありません! この女の脇に注意を払ってください!』なんてメタタグがついていたら、見た目とのギャップもあって面白いかもわからないですけど、知らない人間に見た目通りの『デブ』とか『キモメン』とかタグがついたところで面白くも何ともない。
 まぁ、某ビジュアル系バンドのボーカルみたいに『156』とかっていうと、具体性が出てきたりすると、いくらかは面白くなるかもしれませんが。
 だから、今回の件で毛髪の量が一般の方々に較べて少々不足がちなミドルエイジの外見を、ちょっとあげつらうだけで面白がれるっていうのは、良くも悪くも、その場にいた人間特有の「仲間意識」が働いたからこそなんじゃないかなとは思うし、実際に参加した人だけでなく、家で画面見ながらコメントしてるだけの人もいとも簡単に仲間意識を共有できたってのは、最近のテレビの視聴者との温度差などを見ると、やはり凄いことだとは思う。
 もっともいくら凄いとはいっても、その仲間意識から、内在する悪意を自覚せずに罵倒や侮辱に繋がるコメントが乱発されるのは決して褒められた事ではないし、そういったところから、実際のいじめが始まることだってある。
 けれど、学校内で行われるいじめやいじりの何が本当に問題かっていうと、大体の子供は、学校内で「いじり」や「いじめ」によって嫌な思いをしても、学校に通わなくちゃいけなくて、嫌な環境が恒久的に続いてしまうというところだと思うんだよね。
 それに較べて、今回のニコニコの件では、あの中年男性は会社を休んでまで、主体的にニコニコ大会議という場に参加し、衆目に晒される可能性を推し量ってまで、わざわざ発言したのだから、それがいじめに繋がるという意見はいささか論理が飛躍しているのでは? とも思ってしまう。*1
 それよりもいじめというのであるならば、もう当人が増田で発言して終わらせようとしたはずの問題を、依然、問題提起の種として楽しく議論し、挙句の果てには「お前は傷ついてないかもしれないけど、今、話してるのはお前の話じゃなくてニコニコを中心にした問題なんだよ」などと当事者性を無視した言動が、はてなという一定の場で継続され続ける現状の方が、よっぽど現実のいじめに近いとも思うし、あるいは一昔前の流行語、セカンドレイプのようにも思える。
 少なくとも 俺ははてなで話題になったから、今回の件を知ることができたのだし。
 今回の件で言及されてる方に関して、本人がもう放っておいてほしいと考えてる可能性を考えずに、いつまでも皆で「ハゲのおっさん」と言い続けるのは、ニコ動で当の人物に対して「ハゲ」とコメントしてる連中と大差無いと思うのだがそこら辺はどうなのだろう。脊髄反射の書き込みではなく、ニコ動のあり方に対する問題提起という大義名分があれば、何を言ってもいいのだろうか。
 当の本人は増田で、自分が置かれている状況を茶化して書いていたが、もし、「動画でハゲって言われるよりも、いつまでもこうしてハゲという言葉を使いながら議論されたり、勝手に自分の内面を想定される方がきつい」なんて言ったら、あれはいじめだって言ってる人たちは、一体どうするのかね。
 それと、あれは「いじめじゃない」みたいな内容のエントリに対して、はてブで「死ねばいいのに」や「あたまわるい」などのタグをつけてる人が、いじめについて、どのように考えているのかも気になる。
 無論、俺が今こうして、グダグダ言ってるのもセカンドレイプだと言われたら、「おっさんごめん」としか言えないので、せめて口当たりをマイルドにするために、わずかばかりのデリカシーを発揮して、『ハゲのおっさん』『コッパゲ』『禿山の一夜』『毛髪荒涼地帯』『大丈夫、大丈夫! 温水洋一にはまだ全然勝ってるって! ファイト!』などといった酷い単語はなるべく控えて書いてみたよ! 見てないと思うけど、おっさん、もし見ちゃったらごめんなさい!